今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「日本住宅公団は昭和五十五年七月創立二十五周年を迎えた。本来なら大々的に祝うはずのところ、さすがに恥じて
そのことがなかった。したがって世間は二十五周年に気がつかなかった。私も気がつかなかった。遅ればせではある
が、その罪だけは枚挙しておきたい。
日本住宅公団は何よりスケールを小さくした。団地サイズといって、四畳半強の部屋を六畳といつわった。六畳強
を八畳とあざむいた。悪質な不動産屋もよくしないことを公団はした。スケールというものは勝手に動かしてはならぬ
もので、それを取締る側の『官』が動かしたのだから、『民』は勇んでそのまねをした。
次いで天井を低くした。狭くて天井が低ければ鼻がつかえる。なぜ低くしたかというと、各階から少しずつ高さを
盗めば、九階を十階にできるからである。
それもこれも員数をあわせるためである。軍隊は員数さえあっていればよしとした。公団はその伝統を奪って、
本年度は百五十万戸建設と発表されると、員数だけあわせようとした。各階から盗んで一階ぶん捻出して百棟千棟に
及べば、合計では千戸万戸ふえる。かくて日本中の天井は低くなった。
もう一つ、押入をなくした。団地もはじめは和室が多かった。それを洋室にしたのは西洋コンプレックスもあるが、
和室だと各室に押入が要る。洋室なら要らない。押入のぶんを去ると広く見える。
狭いという非難を少しでもまぬかれるには押入のない洋間のほうがいい。広く見えるとすぐ売れるから、これも
民間のマンションがまねした。和室ならベッドは要らないが、洋間なら要る。ほかに椅子テーブルソファが要る。
かくて家具をまたいでくらすくらしを、住宅公団は日本国民に強いたのである。鼻がつかえる天井の下でくらす
くらしを同じく強いたのである。住宅公団はそのつもりがなく、日本人の生活を根底からゆるがす一大文化的事業
をなしとげたのである。罪万死に値する。」
(山本夏彦著「やぶから棒」-夏彦の写真コラム-新潮文庫 所収)
在宅介護もままならぬ「箱家」を作りつづける「罪万死に値する」。聞いてるか公団OB、△△建設、××不動産。
自業自得、因果応報。