「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2014・03・11

2014-03-11 06:20:00 | Weblog


今日の「お気に入り」。

  ”明治の御生れです”と紹介し若人は我を切り放したり

  浄らなる湖(うみ)のわかさぎ傷みやすく
               はらわた破(や)れて届けられたる

  口むずと閉ぢし春秋
        文弱の徒よりも重し山の大樹は

  花醍醐見ることもなく
        雪醍醐称ふべくなく棲み果つるべし

  断崖にあなうら寒き身の末の
           女郎花(をみなへし)・男郎花(をとこへし)殺(あや)め狩り来て

  とりかぶといまだも此処に咲きのこり
              虫も寄せざる秋のむらさき

                                  (齋藤史)

 
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2014・03・10

2014-03-10 07:00:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。再録。

「どうしてこんな話が受けるかというと、おしんは修身のかたまりだからである。社会主義国にせよ資本主義国にせよ修身のない国はないのに、ひとりわが国にはない。修身を復活させようとすると新聞が必ず邪魔をする。
 実を言うと新聞の『天声人語』『余録』のたぐいは現代の修身なのであるあれには書いた当人が決して実行しない、またするつもりもない立派なことばかり書いてある。だから新聞は修身科復活と聞くと、自分のお株を奪われやしまいかと反対するのである。
 いくら反対しても人は修身を欲することをやめない。おしんは久々で天下晴れて見られる修身の権化である。
                                               〔Ⅲ『限りある身の力ためさん』昭58・8・11〕」

(山本夏彦著「ひとことで言う‐山本夏彦箴言集」新潮社刊 所収)





  Estimated noncombatant (mostly civilian) death toll:
  
  over 100,000 killed by the U.S. air raid (fire bombing) of Tokyo on March 10, 1945

   cf. Estimated death toll:
  
    90,000~166,000 killed by the U.S. atomic bombing of Hiroshima on August 6, 1945

    60,000~80,000 killed by the U.S. atomic bombing of Nagasaki on August 9, 1945

  I offer a silent prayer for the indivisual dead.




  

  
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2014・03・09

2014-03-09 07:10:00 | Weblog


今日の「お気に入り」。

  〈七笑〉といふ酒を置きつくねんと
             女ひとり居て何わらふべき

  婚姻色の魚らきほいてさかのぼる
            物語のたのしきはそのあたりまで

  待つ人もあらねば この世自が老も
                つばらかに眺めつつまゐらう

  白珠の歯もぼろぼろの後遺症の
             我に牧水賞をたまはる

  老いたりとて女は女 夏すだれ
          そよろと風のごとく訪ひませ

  人ならぬものに別るるあはれさは
            短夜あけて死にてゐし兎

  金婚には出逢はず金塊も持たず
             こばん草などの種を蒔く
 
  海棠はいささか痩せて花貧し
            婀娜(あだ)たる春に今年は会わず 

                                  (齋藤史)

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2014・03・08

2014-03-08 06:50:00 | Weblog


今日の「お気に入り」。

  残されし古墨ひとつ父の硯に
           ある夜磨りゆく秘話聞くごとく

  氷を割りて奈落を釣ると見てゐるに
          銀(しろがね)跳ぬるものを上げたり

  きさらぎはわが生れ月年ごとに
            雪は降りゐき月日の渚

  霧隠れ・猿飛などいひし男棲み
             終焉(をはり)伝へず やまぐに此処は

  あはあはとうすき時間のあることを
             よろこびとして草木のなか

  来世などもしあるならば 恋のうた
                死後締切日約さむ

                                (齋藤史)



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春風秋雨 2014・03・07

2014-03-07 08:20:00 | Weblog
 

今日の「お気に入り」。

「人生は春の花が咲く頃に、風が吹いて散ってしまったり、秋の紅葉の頃に雨が降って散ってしまったりと、ままならないことがしばしばあるという意味だ。(金田一春彦)」

  

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2014・03・06

2014-03-06 07:55:00 | Weblog


今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。再録。

文字は言葉の影法師だとギリシャ人は見ていた。ソクラテスもイエスも問答しただけで自分は書いてない書いたのは弟子たちである本を読むのは死んだ人と話をすることだ死んだ人は返事をしない十年二十年たって読み返すとハタと思い当るすでに書いてあるのを発見してようやく問答がなりたったのだ
 人間の知恵は古典に尽きているそれに加える何ものも現代人にはない学ブニシカザル也と古人はそこまで言っている。けれども同じことでも同時代人の口から聞くのはまた格別である。だから本は少しは出てもいい。そんな本でも読む人は稀である。
                                    〔Ⅹ『本屋近くつぶれる』平11・4・8〕」

(山本夏彦著「ひとことで言う‐山本夏彦箴言集」新潮社刊)





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2014・03・05

2014-03-05 07:55:00 | Weblog


今日の「お気に入り」。

  とび立ちて離るることばいましめて
             繫ぎとめたるわが凧(いかのぼり)

  仮綴本をナイフに裂きてゆくときの快感よ
                  どこか殺戮めきて

  陽に焦げて坂下るとき恥多き
            一生(ひとよ)いよいよ香ばしかりき

  母が生れし丸亀に来て数時間
            さぬきうどんを食ひて立去る

  おのれ孤りおのれの毒を食みて生き
             女いささか酔ふことありし

  お前(め)さんは誰の弟子かね俺村(おらほ)にも
               師匠(ししょ)が居りやすまた来て見なして

                       (齋藤史)

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2014・03・04

2014-03-04 07:00:00 | Weblog


今日の「お気に入り」。

  家族とふ枷なくなりし身の今日の
            終りにて睡くなるまで寝(い)ねず

  春来ると空気湿(しめ)ればこころゆるび
             厨の隅の壺流涕す

  廃れたる古き宿場のひるすぎを
           行きたりわれはすこし翳りて

  展翅箱の蝶置きゆきし少年が
            父となり子に虫飼はせ居り

                         (齋藤史)

             
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2014・03・02

2014-03-02 07:20:00 | Weblog


今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。再録。

この世の中にニュースはないテレビは百害あって一利がないと、私は何回も何十回も言ったが、聞いてはもらえなかった。
敵軍は指呼(しこ)の間に迫りました。すでに乱入してドアを蹴破る音は近づいています。これが最後の放送になるでしょう。けれども私たちはまたまたマイクの前に立つ日が来ることを信じて疑いません。その日まで皆さんさようなら
 ポーランドでチェコでハンガリーで、私たちは何度同じラジオを聞いたことだろう
『航空機は羽田を離陸して十なん時間になります。もう燃料は尽きているはずです。連絡はまったくありません。遺族は続々つめかけ叫んでいます。会社には誠意のかけらもない。社長を出せ社長をと』
 つめよる遺族の顔つき口もと二十年前十年前のそれと全く同じである。人はこの世にニュースがないのに耐えられないのである。五年前の十年前の墜落事故と違う証拠に故人の写真をほしがるのである。ほらこの通り住所氏名が違うと言いたいのだろうがそれが違いだろうか。
                                        〔Ⅹ『二十年ぶんのテレビを見る』平10・5・21〕」 

(山本夏彦著「ひとことで言う‐山本夏彦箴言集」新潮社刊 所収)

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2014・03・01

2014-03-01 07:00:00 | Weblog


今日の「お気に入り」。

  循環機能今日はいささか活潑にて
             老女・老鶏水しきり飲む

  托卵は青葉しげれる葦切の
           巣を狙ひつつたくらまれたり

  あざやけき斑(ふ)を持つ鯉を際立たすため
               黒鯉居りて水怖しき

 
  かぎろひを纏(まと)へるわれはゆらめきて
                他界者めくや 犬がおどろく

  ほととぎすといふ草茂る 天上の声に鳴きたるもの過ぎてより

                             (齋藤史)



      
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