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映画「ロスト・キング 500年越しの運命」:孤独を軽やかに救いだす職人芸

世評の高かった「マイ・ビューティフル・ランドレット」が今ひとつピンとこなかったため,イギリスの新進気鋭の映画監督スティーヴン・フリアーズとの相性は良くないのかと思いながら期待しないで観た「プリック・アップ」の切れ味の鋭さは,今も鮮明に思い出せる。ゲイリー・オールドマンの出世作でもある同作が証明した,独善に落ちることなく心の闇を抉り出すフリアーズの手腕は,娯楽色を強めつつ実話を立体的に映画化する方向 . . . 本文を読む
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2023年夏シーズン新作映画レヴューNO.1:「君たちはどう生きるか」「CLOSEクロース」など

「世界が引き裂かれる時」マリナ・エル・ゴルバチ 「ドンバス」を観た時にも感じたが,2014年のマレーシア航空撃墜事件を背景に描かれた,ウクライナが置かれた過酷な状況について,何と無知だったことかと頭を殴られるような衝撃を受けた。 民族間の衝突が生む悲劇と,戦争という極限状況において人間が社会的な生き物としてクリアすべき最低条件を放棄してしまう姿を,しかしゴルバチ監督はカメラの「フレーム」という保冷 . . . 本文を読む
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映画「ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE」:トムが飛び出す先は,果たして何処なのか

予告編やTVスポットで何度も流されたトム・クルーズが断崖絶壁からバイクと共に空中に飛び出すシーンは,本編では長い助走からのジャンプがワンカットで捉えられており,文字通り命がけのアクションで観客を釘付けにする。何度か行われたリハーサルも含めて本人が演じたということだったが,大画面に映し出された身体を張った飛翔は,トム・クルーズがまるでその一部と化しているように見える映画という「見世物」に対する覚悟が . . . 本文を読む
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映画「カード・カウンター」:カードは数えても年齢は数えないタフな作り手に敬意を

日本では定年延長が進みつつあるとはいえ,多くの会社・組織においては60歳でひとつの区切りを付けることがまだまだ一般的だ。担い手不足が深刻な社会問題となりつつある中,70代の長距離運転手も多く見かけるようになった一方で,世代交代を理由に一線から退かざるをえなくなった組織ワーカーには,定年のない自営業が眩しく映るかもしれない。ただ年齢がアドバンテージに直結しないアーティストにとって,年齢に抗いながら仕 . . . 本文を読む
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2023年春シーズン新作映画レヴューNO.3:「アダマン号に乗って」「聖地には蜘蛛が巣を張る」など

「トリとロキタ」:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 名古屋出入国在留管理局で亡くなったウィシュマ・サンダマリさんの支援者の活動について「詐病の可能性を指摘される状況へつながったおそれも否定できない」という発言をした国会議員を,党の幹部が当初は庇う発言をした国で,このダルデンヌ兄弟の新作がどれだけの人の目に触れたのかが,とても気になる。ヨーロッパの映画祭で常に高い評価を受けている監督コンビであ . . . 本文を読む
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映画「TAR/ター」:見世物の原点に立ち返った至高の芸術

ベートーヴェン,バッハ,ワーグナー,フルトヴェングラー,バーンスタイン。指揮者は「作曲家にかしずく存在」と考えるベルリン・フィルの常任指揮者TAR(ケイト・ブランシェット)から見た,クラシック音楽史上にその名を刻んだ巨人たちの姿が次から次へと語られていくうちに,彼らが活躍していた時代も現代と同様に,音楽が社会から隔絶された場所で純粋な「芸術」として存在していたわけでは決してなく,様々な雑音の中で必 . . . 本文を読む
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映画「レッド・ロケット」:ポルノ映画界のアカデミー賞ノミネート俳優,裸で街を疾走す

複数のiPhoneのみで撮影したことが話題となった「タンジェリン」,フロリダの陽光の下,懸命に生きるシングル・マザー親娘の苦境を描いた「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」の2作で一躍米インディペンデント界を牽引する存在となったショーン・ベイカー監督の最新作は,社会人としての良心とは無縁のポルノ俳優がドーナツショップで働く17歳の少女と出会って生き直す,という物語では全然なくて,どこまでもしょうも . . . 本文を読む
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映画「生きる LIVING」:オリジナル作よりスマートになって新たな要素も

黒澤明がまだ戦後の空気が濃厚に残る1953年に,三船敏郎と並んで黒澤組の象徴的俳優と言える志村喬を主役に据えて監督した作品「生きる」。日系英国人のノーベル賞作家カズオ・イシグロが物語をほぼそのままロンドンにアダプトさせ,イギリス映画の新作として甦った「生きる LIVING」は,「フェイク1950年代作品」であることを堂々と宣言するかのような冒頭のタイトルからワクワクさせてくれる。陰影の濃いモノクロ . . . 本文を読む
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映画「コンペティション」:駆け引きてんこ盛りの中,一番の「嘘」は今年49歳というペネロペの年齢か?

「笑う故郷」で主演のオスカル・マルティネスにベルリン国際映画祭の主演男優賞をもたらしたガストン・ドゥプラットとマリアーノ・コーンというアルゼンチン人の監督コンビニよる新作「コンペティション」を観ながら、何故か「1スジ2ヌケ3動作」という牧野省三が語った映画の極意を思い出していた。「スジ」プロット・脚本がしっかりしていて、「ヌケ」映像が美しく、「動作」俳優の所作が決まっている。ペネロペ・クルスとアン . . . 本文を読む
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2023年春シーズン新作映画レヴューNO.2「デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム」「逆転のトライアングル」など

「デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム」 ボウイが生前に残した演奏フッテージや本人のインタビューなどから,ロック・ミュージック史に大きな足跡を残した異型のスターの全貌を描き出そうとする壮大な試み。けれども冒頭に配置され,その後も何度か繰り返して使用される,どこかの異星に取り残された宇宙飛行士のショットが映し出された瞬間に,そのトライは脆くも崩壊する。本作品での言及はないが,一般にボウイと . . . 本文を読む
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