子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

新作映画2022年夏シーズンまとめてレビュー(その1)

2022年07月17日 14時16分17秒 | 映画(新作レヴュー)
「ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行」
スティーヴン・ジェイ・スナイダーが総編集にあたった「死ぬまでに観たい映画1001本」は,まだ観ていない,知らなかった映画のチェックにとても重宝している。私が持っている2004年版で気になっていた,エリア・カザンの妻(当時)が監督したという「WANDA」がとうとう日本公開されることになった今年,スナイダーの慧眼に匹敵する批評眼の持ち主マーク・カズンズがクリエイトして,こちらはすんなりと公開された「ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行」にも,まったくその存在を知らなかったけれども,実に魅力的なフィルムが続々と登場する。「アナと雪の女王」と「ジョーカー」という巨大なヒット作をイントロにして紡がれる111のソネットは,誕生してまだ1世紀と少しの「映画」というメディアが,如何にその地下茎を広く伸ばし,豊穣な世界を形作ってきたかということの鮮やかな証左となっている。香川京子とアピチャッポン・ウィーラセタクンが同列に扱われ,小津と是枝作品の類似を指摘する手腕は実に快く,映画をウェルメイドなハリウッド作品に限定しない観客ならば,夢のような時間を過ごせること請け合いだ。
★★★★

「トップガン マーヴェリック」
そんな幅広い映画世界において,ビジネスという面では常に世界の中心に居続けてきたハリウッド作品を代表する娯楽映画の続編。前作でメガホンを取ったトニー・スコットが既に鬼籍に入ったことに伴って後任に指名されたジョゼフ・コシンスキーが,30年以上のインターバルをどんな形で埋めるのかが注目されたが,取った戦略は「正攻法」だった。すなわち,鼻っ柱の強い若手同士の競争を,そのまま老師と弟子の確執に置き換える。出演者も継続させる。何よりもトム・クルーズの「スター映画」というフレームは保持する。
その際,時代に合わなくなった約束事を,巧妙にアップデートさせることだけは必須だったが,コシンスキーはハリウッドが培ってきた娯楽映画作りの粋を総動員し,最新の撮影技術のサポートも得て,「サプライズ」を慎重に排除しつつ,ほとんどの観客が期待するであろう「そうでなくっちゃ」的な展開を極限まで磨き上げて見せた。文句なし。
★★★★☆

「エルヴィス」
ザ・ビーチ・ボーイズの「ペット・サウンズ」やザ・ビートルズの「サージェント・ペパーズ〜」のような歴史に残るアルバムこそ残せなかったものの,ポピュラー・ミュージックの世界において,エルヴィス・プレスリーが残した功績は信じられないほど大きい。ブラック・ミュージックのエッセンスを,白人家庭のお茶の間に流し込んだことで起きた変革を考えると,これまでエルヴィスの本格的な自伝作品が作られなかったことが不思議なくらいだ。
長年ど派手な仕立ての音楽系作品を送り出してきたバズ・ラーマンの新作は,そんなエルヴィスの短くも輝かしい生涯に強烈なスポットライトを当てた作品だったのだが,その視点と構成は残念ながら当方の思惑とはまったく異なるものだった。エルヴィスの音楽的な独自性や功績に関する言及は前半の一部に留まり,信じられないほど冗長な上映時間のほとんどが,彼のマネージャーとの確執に割り当てられていたのだった。既に大スターだったハンク・スノウや,彼に影響を受けた前述のグループとのやり取りなど,面白くなる要素はてんこ盛りだったのにも拘わらず。コディ・スミット=マクフィーの使い捨て的な起用にも不満が残る。オースティン・バトラーには申し訳ないが,一番力があったのはラストの本人映像だった。
★★


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