子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

新作映画2022年夏シーズンまとめてレビュー(その2)

2022年07月24日 11時49分52秒 | 映画(新作レヴュー)
「メタモルフォーゼの縁側」
未読の人気コミックの映画化だが,老若芸達者の共演が実に楽しい。ゲイに対する知識をほとんど持たないように見える老婦人(宮本信子)が,表紙の美しさに惹かれて買い求めたボーイズ・ラヴのコミックを読み進め,巻末で主人公二人がキスをするコマを観て「あら!」と声を上げるシーンが作品のトーンを定める。続きが読みたくて再び訪れた書店のアルバイト店員うらら(芦田愛菜)と徐々に距離を縮めていく過程が丁寧,かつ簡潔な描写で描かれていく。中盤以降はうららが初めてペンを取り,コミケに出展する作品を作っていく様子がメインのエピソードとなっていくのだが,二人の憧れの作家コメダ優がそこに絡んでいくプロットが効いている。コメダを演じる古川琴音は,出番は少ないものの,主役二人の「巧みさ」の対極にあるような自然体の凄みを漂わせて作品を締める。うららの幼馴染みの同級生とのエピソードがやや平板に終始するのが残念だが,悪人が出て来ないにも拘わらず,全編に静謐な緊張感が漂い,登場人物間の微妙な距離感が実に快い佳品だ。
★★★★

「わたし達はおとな」
贔屓の女優,木竜麻生の作品とあって期待は高かったが,その魅力が存分に発揮されたかと問われると,やや答えに窮する。演劇好きの青年と女子大学生の恋愛が,リアルな会話によって立体化されていく,というフレームが魅力を獲得するには,ヒロインが「メゾネットタイプのアパート暮らし」という設定がまず足を引っ張っている。そんなプロダクションの方向性に対する微妙な違和感を乗り越えるような大きな展開もなく,「妊娠」を巡る物語が淡々と袋小路に入っていく,という印象だ。タイトル通り,二人が「わたし達はおとな」だと主張すればするほど,モラトリアムから抜け出せない閉塞状況が,反語的に浮き彫りになってくるという部分はあったが,メ〜テレとダブが仕掛けている「ノットヒロインムービーズ」の諸作(「勝手にふるえてろ」「寝ても覚めても」「本気のしるし」等)が放ってきた観客を強引にドライヴする輝きは,残念ながら見出せなかった。
★★

「シン・ウルトラマン」
興行的にも,批評面でも大成功を収めているヒット作だが,「シン・ゴジラ」のような興奮は訪れなかった。ほぼ同一のスタッフによる「兄弟作」ながら生じた大きな差異は,一口に言うと「ウルトラQ」と「ウルトラマン」の違いなのかもしれない。リアルタイムで両作の初放映を観ていた身としては,とにかく怖かった「ウルトラQ」の強烈な印象が,得体の知れない「異物」への恐怖と,それによって世界がどう蹂躙されていくのだろうか(勿論当時は「蹂躙」などという言葉は知らなかったが)という不安から来ていたのに比べ,正義の味方が「悪い」怪獣を倒す,という図式に収斂された後者が,観ていて安心できた=ドキドキはしなくなってしまった,ということの違いが,半世紀の時を経て拡大再生産されたという感じだ。「シン・ゴジラ」が異物への恐怖を,右往左往しながらも克服しようとする人間達の姿に敷衍して描いた,一種のコメディに昇華していたのに比べて,異物の意志とヒーローの苦悩が全面に出てしまった真面目さが,動きの少ない画面から更に躍動感を失わせてしまったように見える。長澤まさみが巨大化するだけでなく,CMでやっているキャラクターを活かして,異星人に向かって「おでこにパスワード貼ってあるで」と言わせるくらい弾けてくれていたらなぁ,というのは無い物ねだりだとしても残念だ。
★★


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