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映画「ムーンライズ・キングダム」:極めてウェス・アンダーソン的なほろ苦い人工空間を旅する

主人公のひとり,12歳の女の子スージー(カーラ・ヘイワード)の家を,一家を構成する家族の紹介も兼ねて,上下左右に動くカメラがくまなく写し取るという,「ライフ・アクアティック」そのまんまのオープニングからウェス・アンダーソン節は全開だ。
カメラで切り取られた構図のみがスクリーンに映し出される,という映画ならではの表現様式を最大限に活かし,ほとんどのカットで出演者がカメラに正対して台詞を喋る独特のスタイルを,前作のストップモーションアニメ「ファンタスティックMr.FOX」でほぼ完成させたアンダーソンは,実写に戻った本作でもそのリズムと風合いを保って,楽しくも切ない作品を作り上げた。

どうにも集団に溶け込めない12歳の少年と少女が出会って,駆け落ちを計画する。失踪した二人と,ボーイスカウトと警察と少女の家族とが,のんびりとした追跡劇を繰り広げる入り江には,大きなハリケーンが近付いていた。
これまで同様に,愛すべき厄介なるもの=家族,という主題にブレはない。特に今回は,両親の実子である(おそらく)少女の家族,養子の少年,更には「ボーイスカウト」という擬似的な家族とも言える団体という,形態や親密度を異にする家族が入り組んで繰り広げるドタバタ劇は,現代社会がまとう息の詰まるような合理性の対極にあって,力強い生命力を煌めかせている。
極めて人工的な美術と牧歌的な物語と家族とビル・マーレー。先に記したカメラアングルと併せて,これぞウェス・アンダーソン,という記号のオンパレードに,フォロワーは必ずや涙するだろう。

ただ,せっかくアンダーソン作品に初登場した,コーエン兄弟作品の逞しきミューズであるフランセス・マクドーマンドは,ほとんど見せ場を与えられない。ブルース・ウィリス扮する地元の警察署長と不倫関係にあるという設定は,彼女の一世一代の当たり役である「ファーゴ」の警察署長の残像を活かすための仕掛けとして機能するはずというこちらの期待は,最後まで叶えられない。
同様のことは,ボーイスカウトの指導者役のエドワード・ノートンにも言える。かつて演じてきた孤独の痛みを抱えながら彷徨する青年というイメージを主人公の少年とダブらせて,逃避行に対する追っ手の共感と哀感が,画面から滲み出る瞬間はついぞ訪れなかった。今度こそ本格的なカムバックかと身構えたノートンのファンは,肩透かしを食らった思いで劇場を後にしたはずだ。

とは言え,淡々とした語り口で伝えられる物語は実に味わい深い。明るく柔らかな色彩設計に包まれる94分が,映画ファンにとって至福の時であることは保証できる。
★★★★
(★★★★★が最高)
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