子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「はじまりのうた」:1ドルのアルバム。私も買いたい

2015年02月21日 11時56分20秒 | 映画(新作レヴュー)
才能を持った無名のアーティストと,落ち目の音楽プロデューサーが酒場で出会い,運命に導かれるように街角をスタジオにして音楽を作り上げていく。
公開前に劇場で何度も目にした予告編は,どこかで観たような既視感がつきまとい,「多分あんな感じね」と高を括ってしまいそうになる,どちらかというとネガティブな印象を受けるものだった。
それでも劇場に足を運んだ理由のひとつは,グリンダ・チャーダの爽快なフットボール映画「ベッカムに恋して」以来ご贔屓にしてきたキーラ・ナイトレイが主役を張っているということ。もうひとつは,そのナイトレイが歌う曲の断片的なフレーズが耳について離れなかったこと。そう,劇中で彼女の歌を聴いて雷に打たれたようにアレンジのインスピレーションを得るプロデューサーのダン(マーク・ラファーロ)と同様に,私もまた「彼女の歌に恋して」状態となったからだった。

果たして本編は,音楽を作り上げる楽しさに満ちた演奏シーンが全編を引っ張る,見事な音楽映画となっていた。
バンドメンバーを集めるプロットは,チームを描く作品群のクリシェとも言える「七人の侍」の冒頭部よろしく,何かが始まる高揚感で観客を一気に彼らのサポーターに変身させる。特にバレエ教室の伴奏をやっていたキーボーディストが,バンドに加わると宣言して教室を去る時に,チュチュを着た子供たちが陽気に手を振って別れを告げる短いショットに溢れる温かく微笑ましい空気は,作品全体のトーンを象徴している。
演奏シーンはどれも素晴らしいが,中でもビルの屋上で,騒音に苦情を申し立てる隣人をなだめながら,ダンの娘(コーエン兄弟のウェスタン「トゥルー・グリット」のおしゃまな女の子,ヘイリー・スタインフェルド!)がギターソロを取る曲のクライマックスは,音楽が持つ解放感と整合感がわだかまっていた父娘の和解をもたらすに到る,という落涙必至の名シーンとなっている。

お目当てのキーラ・ナイトレイは伸びやかな歌声は勿論,ビジネス至上主義の潮流に逆らって自分の音楽を貫く覚悟を,実に自然な表情で体現して見事だ。
モス・デフやキャサリン・キーナーなど,中堅所の手堅い演技も,地味に映画のベースラインを作っていて感心するが,ヒロインを裏切るという,作品中ただ一人の「嫌な奴」という役回りを引き受けたアダム・ラヴィーンが,ラストのステージシーンの微妙なニュアンスを湛えた表情で,役者としても達者なところを見せる。
昔流行ったコンビニのCMの台詞「開いてて良かった」ではないが,今年最初の「先入観だけで観るのをやめないで良かった」作品として,大推薦。
★★★★
(★★★★★が最高)


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