子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

Sufjan Stevens「The Age Of Adz」

2010年12月04日 20時00分29秒 | 音楽(新作レヴュー)
前作「The BQE」で大胆な「電子化」を図ったスフィアン・スティーヴンスの新作は,躍動感に溢れ立体的な音像が際立つ傑作だ。「ミシガン」,「イリノイ」と立て続けに「お遍路さんアルバム」を発表したことから,各州をコンセプトにしたアルバムで全米50州を網羅するプロジェクトを進行中,という報道が流れたが(実際にはガセネタだったらしい),そんなプロジェクトなど必要としないスケールの大きさには驚かされるばかり。「The BQE」は,音楽と附属DVDの映像とが見事なシンクロを見せていたが,本作の映像喚起力は前作を凌いでいる。

複雑な構成を持った曲と,音色に関する深いこだわりが,明らかに新世紀の才能を感じさせていた異型の音楽家にとっては,「電子化」と「反復」というふたつのキーワードの重要性を体感したという点で,やはり前作のトライとその成功には計り知れないものがあったようだ。
曲の構造の深化が,大人数のコーラス,というより「合唱」の多用によって,しっかりと地に足の着いた結果に結びついている一方で,「Vesuvius」では「すふぃあーん」と聞こえる「Vesuvius」という単語と,実際の自分の名前を交互に歌って言葉遊びをしてみせたりと,独特のユーモアも健在だ。

最後の25分を越える「Impossible Soul」も,曲の重さよりも自由闊達さの方が前面に出ており,「大作」がまとう重厚感は慎重に排除されているという印象を受ける。
多様な楽器を使い,あちこちで反復を使って軽々と物語を紡ぐ,という点では,音楽家としての体質は日本のトクマル・シューゴと近いかも知れない。
紋切り型のソウル系アーティストが跋扈する音楽界において,支持を拡げるのはなかなか難しいかもしれないが,今いちばんライブを聴いてみたいアーティストだ。
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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