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TVドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」:華麗なコードチェンジに彩られた新たな「カルテット」

2021年06月27日 20時41分09秒 | TVドラマ(新作レヴュー)
次週が来るのが待ち遠しいドラマって,本当に久しぶりだった。しかもそれが大ヒットしながらも,当方には「パンデミックに揺さぶられる2021年の今,堂々と『いちご白書をもう一度』をやられてもなぁ」という印象しか持てなかった「花束みたいな恋をした」を書いた坂元裕二作品とは。何なんだ,この振れ幅は,という驚きに戸惑いながらも楽しませて貰った3ヶ月。「大豆田とわ子」という類い希なる人物の魅力とは一体何だったのか。

3回結婚して3回離婚したアラフォー・シングルマザーで,建築事務所の社長を務める女性大豆田とわ子(松たか子)のドタバタな日常を綴ったコメディ。と,ざっくり括ってしまっては元も子もないくらいに,総括するのが難しいドラマだった。玉の輿に乗るのが夢,と言う中学生の娘に手を焼きながらも,これまでの結婚・離婚歴をものともせず,新しい恋に踏み出すことへの躊躇はなし。けれども図々しく押し掛けてくる元夫たちのことは邪険に出来ずに,ついついパスタを茹でてしまう大豆田とわ子。そんな彼女に吸い寄せられる男たちとのやり取りがドラマの肝だったのだが,全10回のドラマはとわ子の幼馴染みかごめ(市川実日子)の死という大きなツイストによって,一見第一部と第二部に分けられるように見える。

とわ子が,最初の夫八作(松田龍平)が愛していたのがかごめだったと知って,彼女の思い出,というよりも幽霊という実体に昇華した彼女と三人で生きていく,という覚悟を決めたように見えた第9回が最終回でもおかしくはなかったのだが,最終回でとわ子の実の母親が愛した人が父の他にいたことを知るに及んで,彼女の吸引力のコアな部分が明らかになる。
母親が出せなかったラブレターの相手を訪ねていき,その手紙を渡した上で彼女はその相手に言うのだ。「ここにまた来てもいいですか?」と。
更に自分の右腕と頼んだ松林(高橋メアリージュン)が,とわ子の会社の買収を目論むファンドと裏で手を組んでいたことが明らかになってもまだ,彼女のことを「裏切り者」と切り捨てることはできないのだ。

つまり,自分の結婚した三人の元夫を筆頭に,様々な形で断ち切られそうになる他者との繋がりを,とわ子は決して諦めることなく「あー,いやだ,いやだ」と呟きながら保ち続ける。その姿は,まるで生きていくことは,思うようにならない錘付きの数多くのロープを,ずるずる引き摺りながら這っていくこと,と言わんばかりだ。社長に相応しく,毎週華やかな衣装を次々と替え,お洒落な部屋と食事がデフォルトの生活を送りながらも,内実はハアハア肩で息をしながら他者にチョッカイを出しつつどうにか日々をやり過ごしていく,という姿を,リズミカルに描き出した坂元の鮮やかな手腕は,TVドラマとの親和性の高さを改めて証明したものだった。

伊藤沙莉のナレーションや登場人物が入れ替わりで参加した主題歌,更には「カルテット」における吉岡里帆的ポジションで輝きを取り戻したオダギリ・ジョーの怪演など,話題は尽きなかったのが,これだけ詰め込んで視聴率6%というのも,大豆田とわ子的「人生はつらいよ」な感じで,この作品にはぴったりだったのかもしれない。お見事。
★★★★★
(★★★★★が最高)


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