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映画「パトリオット・デイ」:防犯カメラの眼で描かれた惨劇と執念

2017年07月02日 17時43分28秒 | 映画(新作レヴュー)
アメリカで起こった大きな事件は,往々にしてその結末を知ることなくやり過ごしてしまうことが多いのだが,4年前に起こったボストン・マラソンの爆破事件も,こんな形で解決されたことは記憶になかった。
ピーター・バーグがマーク・ウォルバーグと3度目となるタッグを組んだ新作「パトリオット・デイ」は,地道に足で稼ぐことをベースにする警察捜査の教本のようなスタイルを用い,爆弾テロに立ち向かった人々の奮闘をヴィヴィッドに描き出して,事件に関する認識の欠落部分を補う以上のものを生み出している。

バーグ=ウォルバーグのコンビ作としては,海底油田の火災からの脱出を描いた「バーニング・オーシャン」が今年公開されたが,大がかりなセットによる迫力は認めるものの,アクション場面において「カットが細かすぎ,場面が揺れすぎ,視点が変わりすぎる」,言ってみれば「ポール・グリーングラス症候群」とでも形容したくなるようなカットの連続で,疲れ果てたという以外の印象は残っていない。
しかし間髪を入れずリリースされた本作は,登場人物のほとんどが実在,かつその記憶がまだ鮮明な中で作られるという一種の強い「制約」を逆手にとって,驚くべき臨場感を手にした。

観客はおびただしい数の防犯カメラが犯行を解決する決定的な役割を果たしたという事実が,監視社会の到来を静かに宣言していることに気付かされる一方で,理不尽な犯行によって人生に決定的なダメージを与えられた人々のため,何としても犯人を捕まえるのだという捜査陣の執念にも深く心を動かされる。お決まりの「FBI対地元警察」の役割分担を巡るつばぜり合いや,捜査に関わる人々の私生活に関する,果たしてここまで必要なのかと思われる細かな描写が挟まれるのだが,そういった諸々のシークエンスも,ラストで紹介される登場人物の「その後」に収斂した瞬間,すべてが欠かすことの出来ない大切なピースだったことが明らかになる。

しかし映画全体のトーンはあくまでクールだ。各々がそのポジションにおいて果たすべき「仕事」を淡々とこなした結果が大きな成果を生むという,まさに作品が表現した内容そのものが,映画のフレームとなっている。デヴィッド・フィンチャー作品で数多くの実績を積んだトレント・レズナー&アッティカス・ロスのコンビが,美しい電子音で見事な「仕事」を静かに言祝いでいる。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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