子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。
子供はかまってくれない
映画「バーン・アフター・リーディング」:演技派も5人も揃うと,難しい。
オスカーでの勝利を筆頭に,国内外で絶賛された「ノーカントリー」から1年。しかしジョエル&イーサン・コーエン兄弟は,そんな前作のプレッシャーなぞ何処吹く風とばかりに,「ファーゴ」の後の「ビッグ・リボウスキ」と同様,またもコメディへの挑戦だ。
もがけばもがくほどドツボに嵌っていく愚かな人間をヴィヴィッドに活写した新作「バーン・アフター・リーディング」は,冷徹な人間観察眼に貫かれたお茶目なスリラーとして,「ノーカントリー」に続く芸術作品を期待して肩をいからせ劇場に来た観客をも,クスクス笑いとこんがらがった糸を解いていく面白さで「そこそこ」は楽しませてくれる。
登場人物は見事なまでに「自分」が大好きで,かつ間抜けな人間ばかりなのだが,演技派として定評のある5人の俳優は,役者にとって「美味しい」役柄を与えられてここぞとばかりに伸び伸びと楽しげなパフォーマンスを披露している。トニー・ギルロイの佳作「フィクサー」で,脂汗が流れるような対決を見せたジョージ・クルーニーとティルダ・スウィントンに不倫カップルを演じさせたキャスティングの妙も含めて,彼らがこぞって具現化した近視眼的矮小さは見応えがある。
特に輝いているのは,iPodを手(耳?)放さず身体を揺すり続けるブラッド・ピット。これまで築き上げてきたセルフ・イメージを逆手に取るかのような飄々とした脳天気トレーナーが醸し出す軽さは,予想外の退場劇と相俟って強い印象を残す。
ただ,芸達者をこれだけ集めることによって,居心地の良い自由な雰囲気を生み出すことには成功しているが,演技者のアンサンブルによって創造的で新しい面白さを生み出すには,脚本の底が浅すぎた。
相関図を描いたときに,点線は引かれるが画面上の絡みはない関係(例えばティルダ・スウィントンとブラッド・ピット等々)を,観客の想像力で埋めるような工夫は殆ど観られず,笑いの裏に張り付いているはずの「失敗の連鎖に対する怖れ」という感情も,あっけないラストと同時に拡散してしまう。
その他のキャストでは,ドタバタ騒ぎを俯瞰する立場にありながら,人間的なレベルでは彼らと同一地平でぼやき続けるCIAエージェント役のJ.K.シモンズが,「JUNO」における目の醒めるような見事な演技に引き続いて,ユーモアを湛えた素晴らしい存在感で物語を引き締めている。
長年コーエン組の中心だったロジャー・ディーキンスからキャメラを受け継いだエマニュエル・ルベツキーの仕事ぶりは,取り敢えず過不足ない出来と言えるのだろうが,これが完全なバトンタッチになるのか気になるところではある。
ユーモラスかつクールな犯罪劇というコーエン兄弟の原点的作品によるリハビリと捉えれば納得は出来るのだが,その代わりに次作は「ファーゴ」越えを狙った作品を,と強請るファンは私だけではないはずだ。
★★★☆
もがけばもがくほどドツボに嵌っていく愚かな人間をヴィヴィッドに活写した新作「バーン・アフター・リーディング」は,冷徹な人間観察眼に貫かれたお茶目なスリラーとして,「ノーカントリー」に続く芸術作品を期待して肩をいからせ劇場に来た観客をも,クスクス笑いとこんがらがった糸を解いていく面白さで「そこそこ」は楽しませてくれる。
登場人物は見事なまでに「自分」が大好きで,かつ間抜けな人間ばかりなのだが,演技派として定評のある5人の俳優は,役者にとって「美味しい」役柄を与えられてここぞとばかりに伸び伸びと楽しげなパフォーマンスを披露している。トニー・ギルロイの佳作「フィクサー」で,脂汗が流れるような対決を見せたジョージ・クルーニーとティルダ・スウィントンに不倫カップルを演じさせたキャスティングの妙も含めて,彼らがこぞって具現化した近視眼的矮小さは見応えがある。
特に輝いているのは,iPodを手(耳?)放さず身体を揺すり続けるブラッド・ピット。これまで築き上げてきたセルフ・イメージを逆手に取るかのような飄々とした脳天気トレーナーが醸し出す軽さは,予想外の退場劇と相俟って強い印象を残す。
ただ,芸達者をこれだけ集めることによって,居心地の良い自由な雰囲気を生み出すことには成功しているが,演技者のアンサンブルによって創造的で新しい面白さを生み出すには,脚本の底が浅すぎた。
相関図を描いたときに,点線は引かれるが画面上の絡みはない関係(例えばティルダ・スウィントンとブラッド・ピット等々)を,観客の想像力で埋めるような工夫は殆ど観られず,笑いの裏に張り付いているはずの「失敗の連鎖に対する怖れ」という感情も,あっけないラストと同時に拡散してしまう。
その他のキャストでは,ドタバタ騒ぎを俯瞰する立場にありながら,人間的なレベルでは彼らと同一地平でぼやき続けるCIAエージェント役のJ.K.シモンズが,「JUNO」における目の醒めるような見事な演技に引き続いて,ユーモアを湛えた素晴らしい存在感で物語を引き締めている。
長年コーエン組の中心だったロジャー・ディーキンスからキャメラを受け継いだエマニュエル・ルベツキーの仕事ぶりは,取り敢えず過不足ない出来と言えるのだろうが,これが完全なバトンタッチになるのか気になるところではある。
ユーモラスかつクールな犯罪劇というコーエン兄弟の原点的作品によるリハビリと捉えれば納得は出来るのだが,その代わりに次作は「ファーゴ」越えを狙った作品を,と強請るファンは私だけではないはずだ。
★★★☆
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