子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。
子供はかまってくれない
映画「オーケストラ!」:チャイコフスキーをパリで解き放て!
偽ボリショイ・オーケストラが,30年来の念願を果たした指揮者(アレクセイ・クシュコブ)とソリスト(メラニー・ロラン)に導かれて奏でられるチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は,音楽が持つ感情の喚起力の凄さを示して圧倒的だ。多分「のだめカンタービレ 最終楽章 後編」に決定的に欠けていたものとは,このカタルシスだったのかもしれない。クライマックスが過ぎさった瞬間に,満員の劇場に満ちていた幸福感は,ついぞ経験したことのないものだった。
ブレジネフに楯突いたが故にボリショイ・オーケストラの指揮者の座を追われ,今は劇場の清掃員に身をやつしている主人公が,既に音楽から離れてしまったかつての仲間を集めて,身分を偽ってパリ公演に全てを賭ける。
基本的な構造は「がんばれベアーズ」に象徴される,「落ちこぼれのリヴェンジ」もののヴァリエーションだ。
一つ違っているのは,奏者全員が元は脚光を浴びたプロの演奏家であるため,一つの目標に向かって全員が成長していく,という要素がない点だ。その替わりに作品の推進力になるのは,ひとつは主人公の指揮者アンドレの贖罪とソリストの親捜しの物語だ。実際は自分の芸術の成就を目指していながら,結果的に共産独裁主義に反旗を翻したヒーローと思われていることに苦しむ主人公を演じたアレクセイ・グシュコブの繊細な演技と,メラニー・ロランの背筋が伸びた美しさと眼差しの強さが,謎解きを越えた1本の太い芯を,この作品に通している。
この作品にエネルギーを与えているもうひとつの要素は,今のロシアを取り巻く様々な問題をリアルかつユーモラスに提示している点だ。資金不足でパリへの渡航費が調達できないという危機に陥った楽団が,東ロシアのガス王によって救われる件は,チェルシーを買い取ったアブラモビッチの顔が浮かんできて笑わせるが,共産党の集会に集まるサクラを手配することで糊口を凌ぐアンドレの豪放磊落な妻や,リハーサルよりアルバイトに精を出す演奏者の逞しい姿の丁寧な描写は,経済至上主義が蔓延するロシアの実態を実に生々しく浮き彫りにしている。
そんな複数のプロットを飲み込んでいるからこそ,終幕のクライマックスはより感動的に迫ってくる。
「パリ・サンジェルマン(PSG)なら安いでしょう。オーケストラに金を出すよりもPSGを買い取って,メッシを移籍させてFWで使いなさい!」と息子であるガス王をたしなめる母親が,サッカー・チームを持つことに決してひけを取らない歓びを感じることが出来たかどうかは定かではないけれど。
★★★★☆
(★★★★★が最高)
ブレジネフに楯突いたが故にボリショイ・オーケストラの指揮者の座を追われ,今は劇場の清掃員に身をやつしている主人公が,既に音楽から離れてしまったかつての仲間を集めて,身分を偽ってパリ公演に全てを賭ける。
基本的な構造は「がんばれベアーズ」に象徴される,「落ちこぼれのリヴェンジ」もののヴァリエーションだ。
一つ違っているのは,奏者全員が元は脚光を浴びたプロの演奏家であるため,一つの目標に向かって全員が成長していく,という要素がない点だ。その替わりに作品の推進力になるのは,ひとつは主人公の指揮者アンドレの贖罪とソリストの親捜しの物語だ。実際は自分の芸術の成就を目指していながら,結果的に共産独裁主義に反旗を翻したヒーローと思われていることに苦しむ主人公を演じたアレクセイ・グシュコブの繊細な演技と,メラニー・ロランの背筋が伸びた美しさと眼差しの強さが,謎解きを越えた1本の太い芯を,この作品に通している。
この作品にエネルギーを与えているもうひとつの要素は,今のロシアを取り巻く様々な問題をリアルかつユーモラスに提示している点だ。資金不足でパリへの渡航費が調達できないという危機に陥った楽団が,東ロシアのガス王によって救われる件は,チェルシーを買い取ったアブラモビッチの顔が浮かんできて笑わせるが,共産党の集会に集まるサクラを手配することで糊口を凌ぐアンドレの豪放磊落な妻や,リハーサルよりアルバイトに精を出す演奏者の逞しい姿の丁寧な描写は,経済至上主義が蔓延するロシアの実態を実に生々しく浮き彫りにしている。
そんな複数のプロットを飲み込んでいるからこそ,終幕のクライマックスはより感動的に迫ってくる。
「パリ・サンジェルマン(PSG)なら安いでしょう。オーケストラに金を出すよりもPSGを買い取って,メッシを移籍させてFWで使いなさい!」と息子であるガス王をたしなめる母親が,サッカー・チームを持つことに決してひけを取らない歓びを感じることが出来たかどうかは定かではないけれど。
★★★★☆
(★★★★★が最高)
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