子供はかまってくれない

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映画「カンパニー・メン」:コンパクトだからといって深くないとは限らない

2012年04月15日 12時32分39秒 | 映画(新作レヴュー)
アメリカ製の連続TVドラマのクオリティーの高さを知ったのは,その昔NHKで放送された「ER」を観た時だった。当時私の身近で話題となっていた「ビバリーヒルズ青春白書」には食指を動かされなかったのだが,群像劇でありながら組織における個人のあり方やコミニケーションの難しさを,簡潔な台詞のやり取りやなにげないエピソードによって浮き彫りにしていく「ER」の手法は,まどろっこしくスピード感に欠けた日本のホームドラマしか知らなかった私には,新鮮な驚きだった。
大統領府の内実をリアルに抉った「ザ・ホワイトハウス」にも同様の面白さを感じたのだが,どちらもジョン・ウェルズの製作総指揮によるものだと意識したのは,大分後になってからのことだった。
そのウェルズがおそらくは初めて脚本を手がけた(メガホンも)と思われる映画「カンパニー・メン」もまた,練達のTVシリーズ同様に,無駄のない構成と役者の抑えた演技によって,素晴らしい成果を挙げている。

不況によるリストラの波の中で苦しむ現代アメリカ人の姿を,社長と二人三脚で作り上げた重工業系の会社の重役(トミー・リー=ジョーンズ),叩き上げで役員になった元工場長(クリス・クーパー),そして若きエグゼブティブの販売部長(ベン・アフレック)の三人に投影させ,低い声とフラットな目線で描いた作品だ。
主要な登場人物の家族も全員画面に登場させ,銘々に小さなエピソードを割り振りながらも,104分という尺に収め得たのは,ひとえにウェルズの職人芸によるものだろう。
アフレックと彼の義兄(ケヴィン・コスナー)との絡みのように,重たくしていけばそれだけでドラマなら一話分を費やせるようなエピソードを,台詞を削ってコンパクトにまとめていく姿勢が,作品全体のリズムを非常に快適なものにしている。

更にTVサイズのドラマ(と言っても最近は大きな画面が一般的になりつつあるのだろうが…)を,スクリーンサイズにブロウアップするにあたって大きな貢献をしているのは,現代アメリカ映画界におけるキャメラマンの最高峰,ロジャー・ディーキンスの仕事だろう。TVでは一般的なバストサイズのショットを切り捨てつつ,最適な切り返しによって会話の緊張感を保ったり,引き気味のショットとアングルの工夫によって登場人物間の心情のうつろいを表現したりといった細かな技術の冴えは,コーエン兄弟作品への登板時におけるレヴェルそのままだ。

ラストが従来型のアメリカ映画らしく,やや能天気に過ぎる点が拍子抜けだが,大きな造船所の廃墟を移動撮影で舐める最後のショットは,「再建と言ってもそう簡単には行かないぞ」というメッセージと受け取れなくもない。望むべくは今の日本にこそ生まれて欲しい映画だったが,この出来なら贅沢は言うまい。
★★★★
(★★★★★が最高)


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