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映画「はりぼて」:膨大な領収書の中に潜む闇を暴き出したジャーナリストの未来は?

2020年11月01日 12時19分19秒 | 映画(新作レヴュー)
廃線になったJRの線路を活かしてLRT(都市型の軽量路面電車)を導入したことで,全国のまちづくり関係者の注目を浴びた富山市。作品の中で雪を抱いた立山連峰が何度も遠景として映し出されるのだが,その雄大な眺めとは似ても似つかない人間の姑息な営みをあからさまにカメラに捉えた「はりぼて」は,爆笑と嘲笑の果てにこの国の今をも映し出して観るものを戦慄させる。恐ろしくもエネルギーに満ちた政治ドキュメンタリーだ。

発端は議員報酬をひと月あたり10万円上げる条例案が,それを審議する一応「外部」という建前となっている委員会が具体的な理由を示さずに「妥当」と結論づけ,簡単に議会で議決されてしまったこと。これに疑問を持った市民が反対運動を起こす中,こうした一連の動きを追求したチューリップテレビのディレクターは作品の冒頭で,市議会のドンと言われる自民党の会長の「しっかりとした経済的なバックアップがないと議員をやる人間はいなくなる。そうでしょ?」という声高な主張に押し切られてしまう。けれども中核市として全国最高レベルとなる報酬が,実は過半数が自民党関係者によって構成される委員会の答申によって決められてしまう現状に疑念を捨てきれなかった二人のディレクターは,そこで諦めずに富山市に対して政務調査費や,議員の政務報告会が開かれたとされる公的施設の利用状況について情報公開請求をかけ,徐々に市議会議員の中に歴然と存在する闇を暴き出していく。

日常的な業務でマスコミ関係者とも市議会議員とも接触があるため,どのショットにも一見既視感があるのだが,思い込みを排して相手に真相を迫る二人の真摯な姿には,ジャーナリストの鑑とも言えるような迫力がある。自分が組み立てたシナリオに沿った質問しかしようとしない凡百のマスコミ関係者と二人を分かつ鍵は,どんな時も公表されている数字と資料を元にして議員や市役所職員に説明を迫る点だ。ドミノ倒しのように不祥事が明るみになるに及んで,自民党の責任者が最後に「間違いなく今後も同様の事例が出てくる(暴かれる)」と宣言する姿には,長年の慣習を打破することは自分たちには無理だという不敵な諦めさえ滲んでいる。

「コメントする立場にない」と逃げ続ける市長や,言い逃れできないと悟るや沈黙を決め込む市職員。更に「真相を追求する」と言いながら自分は意中の女性職員を追いかけて建造物侵入の罪を冒しながら「議員は辞めない」と開き直る野党議員も含めて,すべてが「はりぼて」と切って捨てて幕が下りるのかと思いきや,膨大な請求書のチェックという地味な作業から,社会の闇を撃つという偉業に辿り着いた二人を待ち構えるラストは衝撃的だ。五百旗頭幸男と砂沢智史。昨日のシアター・キノの入りは決して芳しいものではなかったが,どうか二人の真のジャーナリストが活きる社会とするためにも,一人でも多くの人が劇場へと祈る。
★★★★
(★★★★★が最高)

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