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映画「神様メール」:余命通知メール。これぞ正真正銘の「迷惑メール」でしょう

ひとくちに迷惑メールと言っても,当方にまったく興味がない商品やイベントを取り上げた大量の宣伝・告知メールから,差出人不明で添付メールが付いたどこから見ても怪しいものまで,様々あると思うが,いきなり「あなたの余命はあと何日と何時間と何秒です」という宣告が書かれたメールくらい「はた迷惑」なものはないだろう。
この世界をコントロールしている神様のパソコンから,その娘の気まぐれによって世界中の人々にそんな「迷惑メール」が送られたとしたら,それを受け取った人間はどうするだろうか?
カンヌで新人に与えられるカメラドールを受賞した「トト・ザ・ヒーロー」から四半世紀。その後の「八日目」からでも20年。もはや名前の響きも懐かしいベルギーの俊英,ジャコ・ヴァン・ドルマルの新作は,そんな強烈なグリップでオープニングから全速力で突っ走る。

お伽噺的なテイストが溢れる物語ながら,登場人物の意表を突く設定が秀逸。肝心の神様はほとんど無職のDV常習者で,妻である女神はブリュッセル在住の主婦なのに何故か「野球カード」に夢中。息子のキリスト(JC)は置物にされ,妹と二人きりでいる時しか会話が出来ない。そんな神様一家の中で唯一リアルワールドにコミットしようとするまともな少女,娘のエア(JCの妹)が新たな使徒を募るべく,ホームレスを書記役に従えてブリュッセル中を走り回るというプロットは,まさに「七人の侍」の導入部そのもの。これまで散々使い古されてきたプロットでありながら,エアが市井の人々が抱える孤独や痛みを,神様の娘らしくプチ奇跡によって解決しようとする試みの数々は,使徒候補の面々の個性と色彩豊かな画面づくりによって,心躍る楽しい修行道の様相を呈するに至る。

「アメリ」の印象が強烈だったヨランド・モローのとぼけた顔に再見できたから,と言う訳ではないが,明るい色彩設計や大胆な画面構成には,ジャン・ピエール=ジュネ作品と共通するマンガ的な発想が横溢しており,原題である「新しい新約聖書」の原作は実は手塚治虫が手掛けていた,と言われたら信じてしまいそうだ。
使徒が揃ったところで特に何かミッションが与えられるという訳ではない,という展開が,若干拍子抜けではあるものの,ブルース・リー作品への言及を筆頭に,「昼顔」や「マックス・モナムール」等の古典へのオマージュを感じさせる点も含めて,映画ファンが余命の一部を使って鑑賞する価値はあり。
★★★☆
(★★★★★が最高)
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