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映画「アイ アム ア ヒーロー」:「大泉映画」という衣を被った本格的ゾンビ映画

人は良いのだけれど頼りない。真面目なんだけれども,取り立てて秀でた点がある訳でもない。言ってみればどこにでもいそうな一人の平凡な中年男がある日突然「危機」に瀕し,女性を守るためにやむなくライフルを手にする。
フライヤーからは,そんな展開がイメージされた。そして大筋ではそのイメージ通りの物語を観ることになった訳だが,問題はその「危機」の中身だった。
圧倒的に若いカップルが多かった客席からは上映後に「あー,怖かった」という若い男性の安堵の声が聞こえてきた。そう,人気コミックの映画化作品「アイ アム ア ヒーロー」は,「ホラー」に片足を突っ込んだと言っても良いくらい,かなり本格的な「ゾンビ映画」だったのだ。

冒頭で主人公英雄(=ヒーロー:大泉洋)の恋人(片瀬那奈)が,ゾンビ(劇中では「ZQN=ゾキュン」と呼ばれる)と化して英雄を襲う場面が象徴的だ。愛が醒めかけているとは言えまだ大切に思っている恋人が,ジョン・カーペンターの傑作「遊星からの物体X」に出てきたクモ型の生物にインスパイアされたような姿態と動きで英雄を襲う描写には,「ほのぼの大泉映画」を期待してきた観客の度肝を抜くだけの衝撃があった。後半に出てくる,生き残った人間が立て籠もるアウトレットモールの2階まで軽々とジャンプしてしまう,頭が潰れた首領的ゾキュンの迫力と併せて,デート・ムーヴィーとしての要件は充分に備えていると言えるだろう。

その反面,作品のハイライトとなっているラストのアクションにおける,正当防衛の殺戮から生ずる「爽快感」を越える面白さは,残念ながら感じ取れなかった。
脚本の野木亜紀子は今季のドラマで,黒木華の素晴らしい演技という力強いサポートもあって,お仕事ものドラマの中では最上位に位置する「重版出来」をものした俊英だが,2時間という時間的な制約の中で平凡な男の覚醒というドラマを立体化させる仕事は,少し荷が重かったようだ。

特に惜しまれるのは,半分ゾンビ化しながらギリギリのところで人間の側に留まった女子高校生比呂美(有村架純)という,様々な点で「グレー」な存在を活かしきれなかったことだ。英雄の父性が目覚めるきっかけとなった一方で,無言のうちに英雄を見守る母性をも感じさせる比呂美は,女優有村架純にとってもターニングポイントになり得る役柄であり,事実長澤まさみが霞んでしまうような演技を見せてもいただけに,平板なドラマ部分の出来が惜しまれる。
それにしても,ダッシュするだけでなく,高く飛び上がるゾンビというアイデア,「ワールド・ウォーZ」の続編あたりで使われるのでは?
★★☆
(★★★★★が最高)
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