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映画「カメラを止めるな!」:廃墟,低予算,コメディで泣かせる。完璧だ!

札幌での公開初日のシアターキノ,15時35分の上映は補助椅子プラス立ち見の完全満席状態。本編が始まる前から場内は「くるぞ,くるぞ!」のライブハウス状態だった。満員,立ち見で映画を観るということは過去に何度もあったが,観客がここまでひとつになって「映画鑑賞を楽しむぞ」的な空気になるというのは,経験がなかった。おそらく最近流行りの声出しOK,歌も一緒に唄って,主人公にエールを送ってしまう,いわゆる「応援上映」というのがこれに近いと思われるが,それは作品を熟知した,あるいは原作のファン・ミーティングに近いものであって,作品の内容そのものを知らない観客がここまで一体化してしまうというのは,「コト消費時代」にあっても希有なものだろう。だがSNS時代に誕生した,奇跡のイベントと言っても良いかもしれない「カメラを止めるな!」は,そんな話題を超える素晴らしい作品だった。

最低限の「ネタバレ自己規制」に留意してまとめると,ゾンビ専門チャンネルで,37分間のゾンビ番組をワンカットで撮る,という無謀な企画を引き受けてしまった監督が,スタッフ,役者と共に奮闘する,その一部始終を描いた作品ということになるだろう。いわばトリュフォーの名作「アメリカの夜」的なフレームの中に,ゾンビ,コメディ,お仕事,親子の葛藤等々,複数のプロットを入れて,最終的には「謎解き」というガイドラインに沿って,「ワンカット・オブ・ザ・デッド」という番組を再構築する,その過程で,怖がらせて,笑わせて,泣かせる,という最高難度の技を次から次へと繰り出して見せた,見事な作品だ。

「謎解き」あるいは「伏線の回収」というコアな構造だけを見れば,ブライアン・シンガーの「ユージュアル・サスペクツ」,日本では内田けんじ監督の「運命じゃない人」や「鍵泥棒のメソッド」に近い作品と言えるかもしれない。
確かに前半の「ワンカット・オブ・ザ・デッド」で見せる,いくら低予算のテレビ番組と言ってもそれはないでしょう?という些細な疑問や違和感が,後半でどんどんと潰されて,腑に落ちまくっていく様は,どの作品の謎解きよりも快感度が高いと言える。

だが本作品が,そういった過去の秀作よりも更に一段上の「社会的現象」とも呼べるようなレヴェルに達し得たのは,やはり監督曰く「不器用な人たちだらけ」の登場人物が,ひとつの目的=放送事故なく放映を終える,という些細なミッションの完遂に向けて,奮闘する姿の崇高さがカメラに収められているからに他ならない。場内に満ちていた爆笑の根源は,人が滑稽なまでに真剣に役割を果たそうとする姿の美しさだったのだ。
ちなみに私の爆笑度NO.1は,カメラ助手の女子が激走した挙げ句にすっ転ぶシーン。バスター・キートンに見せたかった。最早,クラシック。
★★★★★
(★★★★★が最高)
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