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映画「さかなのこ」:ギョギョおじさん,狂犬,さかなくん。みんな元気だ

さかなクンの人生を脚色して映画化した本作に,当のさかなクンが出演している。勿論,本人役ではないが,主人公のミー坊(のん)の人生に大きな影響を与えるキャラクターとして,重要な役割を果たしている。役者として演技をしている訳ではないところがミソなのだが,映画を観ていて「こんな感じの人,昔いたなぁ」と思い出していた。社会的な信用度という点で少々問題ありと評価されがちな「不思議な人」が,実は世の中の健全度や強靱性という点で大きな貢献を果たしているのかもしれない,という作品の背骨を,巧妙に補完していたということでは見事な助演だった。キャラクターが主人公のミー坊と被るという点で,さかなクンと双璧の「のん」の目力が最大限に発揮された秀作だ。

好きなことを一直線に。ダイバーシティは大切。滲み出てくるテーマは予想通りなのだが,沖田修一が描くさかなクンの人生は,決して通り一遍のものではなく,観客はそれを体現している主役の二人「のん」と「柳楽優弥」の二人が歩んできた波瀾万丈の役者人生の山坂をそのままこの物語に重ねることで,深く実感することになる。その点で敵対する地元のヤンキーグループの衝突を頂点とする,自然な脱力系の笑いを程よく塗した脚本の巧みさと同様に,この絶妙なキャスティングも作品を成功に導いた大きな原動力になっている。

のんにとって大久明子監督作「私をくいとめて」が彼女の新しい一面を切り拓いた作品だとすれば,本作はエネルギーに満ちたオフビートな魅力溢れる若い女性,という従来からのフレームを踏襲する作品だったが,ともすれば持て余しそうになるくらいの「さかな愛」を全開にして突き進む主人公を立体化できるか,という点で,彼女以外の配役は考えられなかっただろう。
暴走しがちな主人公を優しく見守る,慈愛に満ちた母親役の井川遥の懐の深さも,作品の安定感を担うという役割を完璧に果たしている。国営放送の朝ドラで,同様のキャラクターを演じて毎朝視聴者の怒りを掻き立てている仲間由紀恵の張りぼてのような母親像との違いは一体何なのか?と,余計なことまで考えさせてしまう程に,その落差は大きかった。

客席にさかなクン好きそうな子供を連れた親子の姿を何組か見かけた。のんの笑顔と,パスカルズの長閑な音楽と,近所のちょっと変わったおじさんに触れて,大海に漕ぎ出す子が生まれることを願って,星をひとつ追加。
★★★★
(★★★★★が最高)
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