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映画「マネー・ショート 華麗なる大逆転」:勝者のいない大勝利

CDOにCDS。果ては禁止薬物みたいな名前の合成CDO。株の「空売り」という言葉は勿論,形容詞の羅列にしか見えない原題「ビッグ・ショート」が果たして何を指しているのかもまったく分からない経済音痴は,立場の異なる複数の登場人物が,各々一体何をどうしようとしているのかすら,理解できないまま映画は終わってしまった。
でも何が繰り広げられているのか分からないのに,130分間の上映時間の間,退屈することはなかったというのは凄いことだ。「マネー・ボール」を書いたマイケル・ルイスの原作を映画用に脚色し,見事にオスカーを受賞した脚本には,モンスターの姿を見せずに人々を怖がらせる術に長けたホラー映画に通じるようなテクニックが満載だ。

劇中,何度か私のような門外漢に対する経済解説プロットが挟み込まれるのだが,唯一何となく理解の入り口が見えたような気がしたのは,セレーナ・ゴメスが経済学者と一緒に合成CDOの仕組みをギャンブルに喩えて教えてくれるシーンのみ。そこでは,ここに描かれている物語は実際に行われているギャンブルの結果を,それを見ている部外者が更に予想するギャンブルを打つという,市民生活の必要から為されてきた本来の経済活動からは限りなく隔たった株の売り買いである(らしい),ということが示される。サブプライムローンの破綻によって最終的に勝利を掴むマイケル(クリスチャン・ベール)とベン(ブラッド・ピット)が,終始およそ勝利者とはほど遠い相貌を見せ続けるのは,そんな空しい戦場こそが,自分の住むべきフィールドであると同時に,自分が最も輝ける場所であるという皮肉な現実を受け入れた結果なのだろう。

そんな人々の悲哀を真正面から取り上げたとしたら,観客が核心となる経済問題を理解していることが前提の,殺伐としたドキュメンタリータッチの作品になってしまいかねなかったはず。
そこに狂言回しとしてジャレド(ライアン・ゴズリング)を配し,コメディ風味を加えることで,フライヤーにある通りの「一発逆転のエンタテインメント」としてしまった監督アダム・マッケイ(共同脚本も)の手腕は,ハリウッドの懐の深さを感じさせる。
本来ならコメディ・リリーフを担うはずの「俺たちニュースキャスター」シリーズにおけるマッケイの盟友,スティーブ・カレルが,きれる瞬間のドナルド・トランプを想起させるようなトレーダーを演じているのもマッケイ流のツイスト。
「空売り」の意味は観終わってもピンとこなかったが,入場料分の見応えだけは,掛け値なしに保証できる。
★★★☆
(★★★★★が最高)
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