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映画「これが私の人生設計」:働く女の生きる細道

働く女性を主人公に据えた映画と言うと,髪振り乱して,立ちはだかる男をなぎ倒しながら,社会的地位の獲得という目標に向かってずんずんと進んでいく逞しい女性,というパターンが一般的だが,「これが私の人生設計」のヒロイン,セレーナ(パオラ・コルッテレージ)はそんなパターンからは少し外れている。そもそも映画の導入部分で彼女は既に功成り名遂げた成功者として立ち現れる。そこから成功者という名誉を振り捨て,男尊女卑が色濃く根付くイタリアに戻って来て,畑違いの仕事でも取り敢えず稼げればOK,とにかくローマに戻ることが大事という行動を取ることからして,単純な「上昇志向女性応援ムービー」とは色合いを異にしていることが分かる。理想は持ちつつも一旦は現状を肯定した上で,目の前の課題に取り組む,という現実主義者の悲哀を物語の核に据えたことによって,本作は言葉としては矛盾するが,「リアルなドタバタ喜劇」として胸に迫る作品となり得たと言える。

ひとつひとつのエピソードを見ていけば,設定は類型的だし,突っ込みは浅い。団地のギャング的存在の若者は,活躍する場もなくただ睨むだけでお役御免。団地のリノベーションを受注した事務所の社長も,カビが生えたようなパワハラ,セクハラのオンパレードで,敵役としての存在感はなきに等しい。ギャグもベタで,スタッフには洒落た都会的なセンスで笑わせるつもりはそもそもないように見える。
それでもとにかく観終わった時に何とも言えない幸せな気分になるのは,主役二人と彼らにまとわりつく親戚や知人が,まるで自分たちの知り合いに思えてくるようなキャラクター作りに成功しているからだ。

特にヒロイン役のパオラ・コルッテレージが,故郷に帰ってきたのは良いけれど,なけなしの原付は盗まれる,目指す業界は女性蔑視,母親も叔母も「子供のプライバシー」なんて言葉は知らない,好きになった男はゲイだったという文字通り悲哀だらけの八方塞がり人生を逞しさ溢れる笑顔によって切り拓こうとするセレーナを,どこにでもいそうなお姉さん的雰囲気をまとったまま躍動感溢れるヒロインとして作り上げた功績は大きい。小さいときから耳が遠くなってしまった現在まで,エレーナを盲目的に賞賛し続ける老いた猪のような叔母さんの突進力,エンドクレジットに流れる「タブサンピング」の明るい響きも含めて,すべての若い女性に推薦したい。
★★★☆
(★★★★★が最高)
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