子供はかまってくれない

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映画「ボーン・アルティメイタム」:映画の可能性を拡げ続けるグリーングラス

2007年11月26日 23時34分21秒 | 映画(新作レヴュー)
アクション映画と呼ばれるジャンルで作り続けられてきた夥しい作品群の中で,この作品に匹敵する高い質を持ったフィルムは,そう多くはないはずだ。映画というメディアの特性を存分に活かしたショットの集積が誘う世界は,深い奥行きとリズミカルな重量感を持ち,映画を観た,という充足感で観客を満たす。ほぼ完璧と思われた2作目,更に「ユナイテッド93」を経て膨らんだ期待を凌駕する出来映えだ。

長回しによる画作りよりも,細かなショットの積み重ねを指向するフィルム・メイカーにとっては,ショットが連なった時にどういう動きとリズムを生み出すかが,生命線となる。マーティン・スコセッシとセルマ・スクーンメイカーのチームに代表されるように,そうした監督は同一の編集者と長年タッグを組んで映画を作る傾向が強い。
本作も,監督ポール・グリーングラスの近年の3作でパートナーとして組んできた編集者のクリストファー・ラウズが,正に映像に生命を吹き込むと呼ぶに相応しいカッティングによって,めまぐるしいアクションと物語を,正確かつダイナミックに展開させることに成功している。

ジェイソン・ボーンのキャラクターは,マット・デイモンの的確な理解と抑制の利いた演技によって,ショーン・コネリーが作り上げた初期ジェームズ・ボンドに匹敵するイコンに昇華した。
渋くしぶとい敵役のデヴィッド・ストラザーン,ボーンのパートナーとなるキルステン・ダンスト似のジュリア・スタイルズ,そしてボーンが回帰していく母親としての懐の深さを見せたジョアン・アレン,それぞれにきちんと見せ場が用意してあるため,展開のスピードの割には,落ち着いて物語を咀嚼出来たという感触が残る。映像作家としての腕前が,ストーリー・テラーとしてもちゃんと機能している点が,グリーングラスの素晴らしいところだ。

自分を取り戻した歓びが全身の動きで表現されるラストのショットは,これで終わりと喧伝されていながら,更なる続編の可能性を残した,という感触よりも,失った恋人との決別と開放感とを同時に感じさせて,見事だった。それでも続編,というなら,勿論拒みはしないけれども。


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