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映画「LAMB/ラム」:完璧にデザインされた神話

冒頭,怯える馬の群れを正面から捉えたショットは,正真正銘「ホラー映画」のものだ。それに続く羊小屋の中で一匹の羊が通路に放り出されるショットと共に,観客に「何者か」の存在を見せずに,得体の知れない威圧感を与える,という点では「モンスター映画」としてもパーフェクトな導入部から,A24作品「LAMB/ラム」は始まる。ひと昔前に「アイスランドの有名人(グループ)と言えば,ビョーク,シガー・ロス,グジョンセン(サッカー選手)」と軽口を叩いていたことがあったが,本作を観てその中に「ヴァルディミール・ヨハンソン:映画監督」を加えたくなったほどに,見事な悪夢を堪能させられる作品だ。

自然豊かな山間の村で羊を飼って暮らしている夫婦が,ある日見たこともない「羊の子」の出産に遭遇する。小さな娘を亡くしていた二人は,「アダ」と名付けた「羊の子」の誕生を天の恵みと受け取り,それがまるで自分たちの使命であるかのように大切に育てていく。都会からやって来た夫の弟は,そんな家族の様子を訝しむのだが,ある日妻が執拗に「それ」の後を追いかけてくる母羊を射殺したことをきっかけに,幸せな「家族」の日常が狂っていく。

物語がまるで「ローズマリーの赤ちゃん」の後日談のような様相を見せながらも,「アダ」を自然に受け容れてしまう夫婦の姿を決して異様に見せない語り口が作品の肝だ。
母国語であるスウェーデン語を含む北欧系言語4つを操り,スペイン語圏におけるペネロペ・クルスのような存在になりつつあるノオミ・ラパスは,制作を兼任する本作において,文字通り「母親」的な包容力で作品の基盤を支える。尋常ならざる「母の愛」が,文字通り悲劇の引き金となってしまう展開が,物語の結末として相応しいものに映るのも,彼女の堂々たる演技があってこそだろう。

加えて舞台となる山間の村の雄大な自然が,物語の背景という役割を越えて「こんな場所なら,こんなことも起こり得るかもしれない」という説得力を持って迫ってくる。「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ヒストリー」の特殊効果を担当したヨハンソン監督の手腕が生きる「アダ」の造形と共に,人間が決して征服することは出来ない大自然の深淵を映し出した腕力に唯々ひれ伏す106分間。奇しくもW杯サッカーが行われる国の母国人人口と同じ,30万人の国から生まれた必見の秀作だ。
★★★★★
(★★★★★が最高)
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