子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「アフタースクール」:放課後のかくれんぼの楽しさ

2008年07月03日 23時17分12秒 | 映画(新作レヴュー)
話題になった「運命じゃない人」から3年。主役の中村靖日を筆頭に,当時は「一体誰?」って俳優ばかりだったキャストが,本作では大泉洋,佐々木蔵之介,堺雅人に常盤貴子という,今を時めく豪華な顔ぶれに変わったことを除けば,作品の基本構造と面白さは変わらない。人間や人生の深さを登場人物の苦悩に求める人には薦められないが,ものの見方ひとつで現実の認識なんて簡単に変わる,という考えに与する人には,堪えられない面白さが用意されている。

技巧的だという評が目に付くが,前作ほど視点と時制の切り替えが頻繁に行われるわけではない。しかしその分,観客は出来事を登場人物それぞれの目で見るとどう感じるか,ということを後追いで考えながら画面を見つめることを求められる。その結果,観客はクリストファー・ノーランの「メメント」に出会った時にも似た,かなりややこしい鑑賞法を要求されることになる。
しかし,目の前を通り過ぎていった物語を常に頭の中で組み立て直しながら,次の展開が提示されている画面にも集中し続けることは,忙しなくも楽しい作業だったと言える。

主要キャスト5人の内で中心を成すのは,闇の興信所を開いているニヒルな探偵役の佐々木蔵之介と,失踪してしまう堺雅人の中学校時代の同級生である大泉洋との絡みだ。社会のダークサイドを生き抜きながら,子分格の若者に裏切られ,切羽詰まった失踪者を追い求めている内に,自らが窮地に追い込まれていく,というシリアスな人生を生きる佐々木が,お気楽な公務員という身分と考え方を揶揄した大泉に出し抜かれる過程は,細かな伏線を検証しつつ,もう一度味わい直したいと思える程に精緻な出来映えだ。

最初に前作と変わらないと書いたが,一晩の夜の長さがもたらす切なさ,みたいな感覚は,少しだけ前作に分があるかもしれない。だが,エレベーターの状況を記録したヴィデオの秘密が明らかになるラストの,くすっと笑えてすとんと落ちる感じは,見事の一語に尽きる。
深遠さとか,感情の機微等とは無縁の風体を装いながら,ひょっとしたら世の中ってこんな風に回転している可能性もあるのかも,と思わせるようなアプローチを,私は支持する。これは,ありだ。


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