子供はかまってくれない

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映画「家族はつらいよ2」:弱者に注ぐまなざしの強度

2017年06月11日 18時20分08秒 | 映画(新作レヴュー)
第1作でも使われていた人懐っこいメロディが流れてきて,さまざまなロゴを組み合わせてキャストの名前を紹介していくクラシカルなタイトルが画面に出てきた瞬間に,かつてワイドスクリーンに大写しになった「男はつらいよ」の文字を思い出した。山本直純亡き後,自らの集大成とすべく取り組んだ新しいシリーズを体現するようなメロディの作曲を託した山田洋次監督の信頼に,久石譲は見事に応えてみせている。85歳の監督が撮り上げた新作は,その軽快なメロディに背中を押されるように,独特のリズムを刻みながら進んでいく。

別居している子供たちが実家に集まって繰り広げるドタバタを描いたホームドラマという,繰り返しテレビで扱われてきた枠組みながら,橋爪功と吉行和子という大ヴェテランを中心とした芸達者のアンサンブルによって,10億円を越えるスマッシュヒットとなった第1作に続く第2作。今作は夫婦仲は元に戻ったのも束の間,父親(橋爪功)の運転免許返上騒ぎに端を発して,社会的な地位も家族も失った孤独な高齢者の末路という,山田洋次らしい視点が作品の中心に据えられている。

正直,純然たるコメディとして見ると,ギネス級のヒットシリーズとなった「男はつらいよ」にはあった,お約束と分かっていながらも吹き出すような笑いが殆どないという点で,かなり厳しいと言わざるを得ない。終盤の死人を巡るドタバタも,お世辞にも洗練されているとは言えないだろう。娘役の中嶋朋子に代表されるように,台詞回しもかなり大仰で映画館で聴くとかなり演劇寄りの発声に感じられる。
にも拘わらず,弱者が蔑ろにされてしまう今の社会に対して「ここで声を上げなければ」という山田洋次の思いには,ケン・ローチの「わたしは,ダニエル・ブレイク」に匹敵する強度がある。ラストの火葬場のシークエンスには,たとえ個人を尊重する最後の砦であるべき「家族」がなくなってしまったとしても,それに代わる存在があり続けてほしい,という作り手の思いが結実している。

洗練されていない,などと上から目線で書いてしまったが,世間で話題の「うんこ漢字ドリル」のお株を奪うような「うんこ」ネタを敢えて乱発する姿勢に加え,社会問題を抉る道具として「コメディ」に拘る姿勢には,心から敬意を表したい。
ただ,公開直後に起こってしまった主演の親族の不祥事を知るにつれ,「家族はつらいよ」が洒落にならない不運を思う。まったく,家族はつらいのだ。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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