子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「悪童日記」:残酷な世界を冷徹に見つめる四つの目

2014年11月03日 10時39分26秒 | 映画(新作レヴュー)
四半世紀前にベストセラーとなったアゴタ・クリストフの原作は,出版直後にすべて読んでいたのだが,細かなエピソードはほとんど忘れていた。おかげで三部作の第一作を原作者の母国であるハンガリーのヤーノシュ・サースが監督した「悪童日記」は,まったくのオリジナルな物語として楽しむことが出来たのだが,これも今はなき赤瀬川原平翁曰くの「老人力」がついてきた証拠なのだろう。

ほとんど忘れていた原作の中でも,辛うじて憶えていたのは,結果的に主人公を強く育て上げることになるお祖母ちゃんの底意地の悪さと逞しい生命力だった。それはこの映画化作品の中でも物語の核の部分に見た目通り「どっかり」と腰を据えている。「婆さんはユニヴァーサルに国境を超越した存在だと思う。婆さんに人種はないのである」と書いたのは雪の結晶の研究で知られる中谷宇吉郎だったが,映画を見終えて感じるのは,アジア系でもあるハンガリー人ピロシュカ・モルナールが演じる,間違いなく昭和の日本にも存在したであろう「意地悪婆さん」のエネルギーこそが,主人公の瞳に宿る諦念と生命力のオリジナルだったということだ。主人公の双子がスープのおかわりをしようとするのを,まるでイタリアのカテナチオのような強固な守備で撥ね除けるお祖母ちゃんの手つきを,彼らがそっくり真似て父親のおかわりを拒否するシーンは,映画全体を支配する緊張感とユーモアがない交ぜになった空気を象徴している。

その主人公の双子を演じるふたりの眼差しは,戦争という狂気に対抗して生き残るために必要な強度を,明確に示して見事だ。ミヒャエル・ハネケとの仕事で知られるクリスティアン・ベルガーのカメラは,バストショット以上に対象をアップで捉えることを慎重に避けることで,人間の愚かさを冷静に切り取ることに成功している。
双子は続編の制作を熱望しているということだが,監督の答や如何に。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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