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映画「アフター・ウェディング」:人間を結ぶ絆の力

1960年生まれのデンマーク人,スサンネ・ビアは,周到に構築された脚本と練達の演技,そして独自のリズム感に満ちた編集術によって,骨太の人間ドラマを作り上げた。北欧の透明な空気と生きている人間の熱い血がせめぎ合うような空間は,実に魅力的で,119分間はあっという間に過ぎていった。

インドの孤児院で働くデンマーク人の男が,施設の金策に追われ,やむなく母国の実業家に援助を求めるために帰国する。男と直接会って話し合いをすることが,実業家の条件だったためだ。
この孤児院の日常と実業家との電話によるやり取りを,テンポ良くカットバックで繋ぐ冒頭部から,映画はミステリアスな雰囲気を振りまきつつ,トップスピードで走り出す。

激しい台詞の応酬に満ちたシークエンス同士が,一見唐突なようにも見える接合を施されることによって生まれるリズムは,脚本と編集の緊密なコラボレーションがあってこその芸当だ。それは,クロースアップ・ショットの多用と,手持ちカメラによる画面の微妙なブレとともに,ドラマの悲劇的な側面のみを抽出しようとする古典的な作劇とは,一線を画す決定的な要素となっている。

主役の3人のアンサンブルも,曲線だらけのパズルのピースがぴたりとはまるように,静かで激しい葛藤を炙り出す。特にシセ・バベット・クヌッセンの抑えた演技と美しさは,主人公の台詞ではないが,「海であり空であり」目眩がするほどだ。
音楽では,デンマークではなくアイスランドの出身なのに,何故かこの国で育まれたようなハーモニーを奏でているシガー・ロスの馴染み方が,実に印象的だ。日本と韓国の映画界で行われている,原作の本家取りとは違う交流が,少しだけ羨ましい。

実業家が仕掛けた罠によって,奇しくも邂逅を果たした親子を捉えた幸福に満ちたショットと,為すべきことをやり遂げた実業家が,最後に妻の前で見せる姿が織りなす鮮やかなコントラストが,いつまでも脳裏を離れない。冷徹な人間観察眼を,高度な技術で画面に昇華させる術を携えて現れたこの監督は,間違いなくジェーン・カンピオンを超える存在になるだろう。同い年のアルチザンを,私は応援したい。
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