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映画「ヒミズ」:主役二人から放出される,凄まじい熱量に圧倒される

2012年01月28日 21時06分25秒 | 映画(新作レヴュー)
ヴェネチアで最優秀新人俳優賞を受賞した主役二人,染谷将太と二階堂ふみの演技がとにかく凄い。
染谷は常軌を逸した状態に踏み込んだ後の演技における理知的なコントロールに,そして二階堂は染谷からキスを受けた後の,言葉では表現できない歓喜と絶望が入り交じった,艶かしくも危険な微笑みに,ともに底知れない凄みを感じた。
正視に耐えない殴打場面,それも腕力に勝る非人間的な大人が,前向きに生きようとするか弱い子供をいたぶる,という凄惨な暴力シーンが延々と続くのに,観終わった時の気分のかなりの部分が,ラストシーンで堤防を走る二人の後ろで明けていく空の色に染められていることに気付いた観客は,瓦礫の中から頭を覗かせた希望の芽を見つけることになる。
全てを赦す力と権利を持っていたのは,彼ら二人の方だったのだという理を全身で理解したヴェネチアの審査員が,二人の名前を読み上げた瞬間はさぞ感動的だっただろう。

「冷たい熱帯魚」で,人生に不意打ちをかける暴力的な「理不尽」を描いて観客を圧倒してみせたにもかかわらず,続く「恋の罰」では,性,暴力,生,死の全てが,観念的な隘路にはまり込んで失速してしまった園子温。そんな彼が矢継ぎ早に放った最新作は,若者に人気のコミックの映画化という,彼自身初となる原作ものへの挑戦だった。
今回もところどころで,観念的かつ諦念的言語の引力に負けそうになる瞬間は生じるものの,若者二人の地面に足を着けて踏ん張る抗力のおかげで,型通りのストーリーも,手持ちカメラを多用した映像のどちらも,最後まで躍動感を失わず,感動のラストシーンへとなだれ込んでいく物語の流れは,過去の園作品のどれよりも太く熱い。

主役の二人以外では,でんでんと渡辺哲という「冷たい熱帯魚」の主要キャスト二人が,大人の世界の奥深さを体現して,しっかりと若者に拮抗している。
特にでんでんは,「冷たい熱帯魚」直後に観たTV「鈴木先生」での好々爺が,とても現実のキャラクターには思えず難渋したものだが,今回もまた暴力の世界にしか生きられない貸金業屋の持つ闇を,絶妙の台詞回しで造り上げていて見事だ。

撮影直前に起こった東日本大震災を,当然原作となったコミックにはなかったにもかかわらず,登場人物の心理的な背景として適度な距離感と必然性を伴って取り上げた構成の巧さと,クールな演出には改めて舌を巻いた。運命の過酷さに打ち拉がれるこの国に向けられた「スミダ,がんばれぇー!」という二階堂の絶叫は,大人への反抗と絶望という普遍的な青春物語を越えて,今このときも被災地で頑張っている人々へも届くに違いない。
★★★★
(★★★★★が最高)


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