子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。
子供はかまってくれない
映画「ディア・ドクター Dear Doctor」:嘘つきは人助けの始まりか
他人のために嘘をつくことは,罪になるのか。その嘘を受け容れる人間もまた,嘘の片棒を担いだことになるのか。
登場人物の台詞一つ一つが,虚実の分水嶺を行ったり来たりする様を見極めるという作業が,時間が経つにつれて次第に快いものになっていく。人間をその分水嶺に立たせることで生まれる緊張感を,研ぎ澄まされた言葉と表情の応酬で描き出す監督の西川美和の腕は,「ゆれる」の時のレヴェルを一段上がったところに到達している。
物語の序盤,主人公の伊野医師(笑福亭鶴瓶)が,「免許ないんや」と衝撃の告白をする。どうやらそれは車の運転免許のことらしい,と観るものが納得しかけた後に続く,伊野が臨終の床にある老人の背中を叩いて,偶然に蘇生させてしまうシークエンスによって,どうやら主人公は「偽医者」らしいということが,かなり唐突に観客に示される。
普通なら,ここからは伊野の嘘が村の住民にばれるかどうか,という駆け引きが,展開の中心となると考えるところだ。しかしこの嘘は,既に伊野個人の嘘という領域を越えて,真実を知る少数の人間(余貴美子や香川照之ら)と,真実を知りたいと思ってはいない多くの住民によって,「支えられている」らしいということが次第に明らかになってくることで,物語は予期せぬ展開を見せる。
嘘をついた動機は別にして,心性は「善」でしかありえない主人公は,結局「命」に関わらざるを得なくなってしまうことによって,退路を絶たれてしまう。
しかしここでもきっかけは,胃を病んでいる未亡人かづ子(八千草薫)の子供に対する親心から生まれる「嘘を望む気持ち」だ。
伊野とかづ子の温かい交流と,ドラマのクライマックスとなる伊野とかづ子の娘(井川遥,何という美しさ!)との対決は,正に「虚実」と対を為すコントラストを見せて見事だ。
笑福亭鶴瓶の演技が絶賛されているが,どうしても私には「演じる技」を持っているようには見えなかった。強いて言うならば,キャスティングの勝利というところだろうか。
反対にTVドラマ出演が続いていた八千草薫は,(最近は小さいとは言い切れないのだが…)TVの画面では捉えきれない大きな技で,観客をねじ伏せる。
「真実」を探し求める凸凹二人組の刑事(岩松了と松重豊,巧み!)が,村中を駆け回ることによって炙り出していく薄っぺらな「事実」が,果たしてこの世における本物の「真実」なのか。
八千草薫がラストシーンで見せる,掛け値なしに「本物」の笑顔こそが,その答だ。
★★★★
登場人物の台詞一つ一つが,虚実の分水嶺を行ったり来たりする様を見極めるという作業が,時間が経つにつれて次第に快いものになっていく。人間をその分水嶺に立たせることで生まれる緊張感を,研ぎ澄まされた言葉と表情の応酬で描き出す監督の西川美和の腕は,「ゆれる」の時のレヴェルを一段上がったところに到達している。
物語の序盤,主人公の伊野医師(笑福亭鶴瓶)が,「免許ないんや」と衝撃の告白をする。どうやらそれは車の運転免許のことらしい,と観るものが納得しかけた後に続く,伊野が臨終の床にある老人の背中を叩いて,偶然に蘇生させてしまうシークエンスによって,どうやら主人公は「偽医者」らしいということが,かなり唐突に観客に示される。
普通なら,ここからは伊野の嘘が村の住民にばれるかどうか,という駆け引きが,展開の中心となると考えるところだ。しかしこの嘘は,既に伊野個人の嘘という領域を越えて,真実を知る少数の人間(余貴美子や香川照之ら)と,真実を知りたいと思ってはいない多くの住民によって,「支えられている」らしいということが次第に明らかになってくることで,物語は予期せぬ展開を見せる。
嘘をついた動機は別にして,心性は「善」でしかありえない主人公は,結局「命」に関わらざるを得なくなってしまうことによって,退路を絶たれてしまう。
しかしここでもきっかけは,胃を病んでいる未亡人かづ子(八千草薫)の子供に対する親心から生まれる「嘘を望む気持ち」だ。
伊野とかづ子の温かい交流と,ドラマのクライマックスとなる伊野とかづ子の娘(井川遥,何という美しさ!)との対決は,正に「虚実」と対を為すコントラストを見せて見事だ。
笑福亭鶴瓶の演技が絶賛されているが,どうしても私には「演じる技」を持っているようには見えなかった。強いて言うならば,キャスティングの勝利というところだろうか。
反対にTVドラマ出演が続いていた八千草薫は,(最近は小さいとは言い切れないのだが…)TVの画面では捉えきれない大きな技で,観客をねじ伏せる。
「真実」を探し求める凸凹二人組の刑事(岩松了と松重豊,巧み!)が,村中を駆け回ることによって炙り出していく薄っぺらな「事実」が,果たしてこの世における本物の「真実」なのか。
八千草薫がラストシーンで見せる,掛け値なしに「本物」の笑顔こそが,その答だ。
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