ブロードウェイで評判を取り,トニー賞を6部門で受賞した大ヒット作の映画化作品。主役に抜擢された俳優も,舞台で初代の主役を務めた役者を抜擢ということで,「オリジナル」に敬意を払いつつ,映画という新たなステージに挑戦した意欲作だ。「いつでもどこでも突然歌い出すのがお約束」というオープンな形態を持つミュージカルと,一瞬にして世界と繋がってしまう可能性と危険性とを併せ持ちながら,基本は極めてパーソナルなメディアであるSNSとを結びつけるという試みは,果たして映画というフォーマットにおいて親和性を見出し,成功を収めることはできたのか。
高校生のエヴァン・ハンセンは学校に仲の良い友達はおらず,シングル・マザーの母とも心を通わせることが出来ずに,カウンセリングを受け投薬を続ける日々を送っている。そんなある日カウンセリングの課題として書いた「自分宛の手紙」を,同級生コナーにからかい半分で奪われる。その「親愛なるエヴァン・ハンセンへ」という書き出しで始まる手紙を持ったまま命を絶ってしまったコナーの残された両親は,「エヴァン・ハンセン」という学生こそが,亡き我が子のたった一人の親友だと思い込み,エヴァンを家族の一員のように迎え入れる。同情心から真実を言えなくなったエヴァンはやがて,同様に心に孤独を抱える同級生が立ち上げたコナー追悼運動に巻き込まれ,一見遺書のように見える自分の手紙が拡散されてしまうという事態に追い込まれてしまうのだった。
フライヤーには「『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』の音楽チームが贈る感涙ミュージカルが映画化」という惹句が踊っていたが,物語の展開は「ミュージカル」という言葉から連想される開放的で躍動的なものとは真逆の方向にアクセルを踏む。たとえエヴァンの心が孤独に冒されていたとしても,どんなにコナーの家族が悲しみに打ちひしがれていたとしても,さすがにそこまで負の回転モーメントを与えるような行動は取らないよな,エヴァン,と突っ込み続けてしまったというのが正直なところだ。SNSの拡散シークエンスが,映画独自の表現によってよりインパクトのあるものに昇華していたはずなのにも拘わらず。その結果,孤独を救済するためのエールとなるはずの美しい楽曲の多くは,耳を素通りしてしまい,感涙にむせぶ間もなくフィナーレを迎えることとなってしまった。「イン・ザ・ハイツ」という極上のエネルギーに満ちたミュージカルを先に体験してしまったのも,受け止めが悪い方向に作用してしまった要素のひとつかもしれないけれど。
ただ終盤で主人公の母親役のジュリアン・ムーアが歌うシーンは,ファンである私でなくとも心揺さぶられるはず。「グロリア 永遠の青春」観に行かなくては。
ということで冒頭の疑問は,ミュージカルとSNSの相性は決して良いとは言えない模様,という幕引きに。
★★★
(★★★★★が最高)
高校生のエヴァン・ハンセンは学校に仲の良い友達はおらず,シングル・マザーの母とも心を通わせることが出来ずに,カウンセリングを受け投薬を続ける日々を送っている。そんなある日カウンセリングの課題として書いた「自分宛の手紙」を,同級生コナーにからかい半分で奪われる。その「親愛なるエヴァン・ハンセンへ」という書き出しで始まる手紙を持ったまま命を絶ってしまったコナーの残された両親は,「エヴァン・ハンセン」という学生こそが,亡き我が子のたった一人の親友だと思い込み,エヴァンを家族の一員のように迎え入れる。同情心から真実を言えなくなったエヴァンはやがて,同様に心に孤独を抱える同級生が立ち上げたコナー追悼運動に巻き込まれ,一見遺書のように見える自分の手紙が拡散されてしまうという事態に追い込まれてしまうのだった。
フライヤーには「『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』の音楽チームが贈る感涙ミュージカルが映画化」という惹句が踊っていたが,物語の展開は「ミュージカル」という言葉から連想される開放的で躍動的なものとは真逆の方向にアクセルを踏む。たとえエヴァンの心が孤独に冒されていたとしても,どんなにコナーの家族が悲しみに打ちひしがれていたとしても,さすがにそこまで負の回転モーメントを与えるような行動は取らないよな,エヴァン,と突っ込み続けてしまったというのが正直なところだ。SNSの拡散シークエンスが,映画独自の表現によってよりインパクトのあるものに昇華していたはずなのにも拘わらず。その結果,孤独を救済するためのエールとなるはずの美しい楽曲の多くは,耳を素通りしてしまい,感涙にむせぶ間もなくフィナーレを迎えることとなってしまった。「イン・ザ・ハイツ」という極上のエネルギーに満ちたミュージカルを先に体験してしまったのも,受け止めが悪い方向に作用してしまった要素のひとつかもしれないけれど。
ただ終盤で主人公の母親役のジュリアン・ムーアが歌うシーンは,ファンである私でなくとも心揺さぶられるはず。「グロリア 永遠の青春」観に行かなくては。
ということで冒頭の疑問は,ミュージカルとSNSの相性は決して良いとは言えない模様,という幕引きに。
★★★
(★★★★★が最高)