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映画「ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド」:フルメタル・ミッキーに幸あれ

1982年の結成から1987年の解散まで,まさに80年代を全力で駆け抜けたという印象が鮮烈なマンチェスターのバンド「ザ・スミス」。中心メンバーだったモリッシーとジョニー・マーは,その後もイギリス音楽シーンに欠くことの出来ない重要人物として,素晴らしい仕事をいくつも残したが,やはり世界中の孤独な若者に与えた影響という点で,ザ・スミス時代の5年間を超えることは叶わなかったと断言できる。スティーヴン・キジャック監督の「ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド」は,そんな彼らがグループを解散する,ということが報道された日に,そのニュースに衝撃を受けた若者たちの1日を描いた作品だ。

その「運命の日」にザ・スミスの熱狂的なファンがラジオ局をハイジャックし,DJを脅して終日ザ・スミスの曲をかけ続けさせた事件が起こった,という都市伝説を基にした本作の肝は,その熱狂的なファンが震源地だったロンドンでもなく,ましてやマンチェスターでもリバプールでもなく,イギリスから遠く離れたコロラド州のデンバー在住だった,という点だろう。
LGBTQが社会的に広く(正しく,ではないことは勿論)知られるようになる遙か以前,ザ・スミスの楽曲が紡いだ痛いほどの孤独に激しく共感し,文字通り共振した若者は,言語や人種,社会環境の違いを軽々と超えて世界中に広く存在していた,という本作に描かれた世界観は,おそらくは現在もまだ有効に機能しているはず。自分が現実社会に「理解されない」「受け容れられない」存在であることを自覚し,しかも心のどこかでそのことを自らの「純粋さ」の勲章とさえ思いつつも,「分かってくれる」存在を渇望する若者の苦悩はいつの世も不変なのだ。

心の碇だったはずの存在を失ったことで,感情の揺れを持て余し彷徨う若者の姿の危なっかしさが,そのまま作劇のもたつきに繋がってしまっているところは残念だが,彼らの心情にザ・スミスの音楽をぴったりとシンクロさせる手腕は光っている。そして何よりも,ヘビメタ命のDJが脅されて無理矢理かけさせられたレコードから飛び出してくるジョニー・マーの鋭いギターリフに思わず反応してしまうところが作品のハイライトだろう。「アメリカン・グラフィティー」のウルフマン・ジャックを彷彿とさせるフルメタル・ミッキー,ハレルヤ!
★★★
(★★★★★が最高)
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