子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。
子供はかまってくれない
映画「ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった」:ロック史上屈指のユニットの光と闇
デビュー公演を行ったウィンターランドでの最後のライヴ「ラスト・ワルツ」は,全てのメニューをこなした後もまだ「帰ること」=「グループの解散を認めること」をよしとしなかった大勢の音楽仲間たちが,いつまでもステージに残って統率の取れないインプロヴィゼーションをうだうだと続けた後に,「まだいたのかい?」という言葉と共に楽屋から戻ってきたザ・バンドのメンバーが「Don't do it」を演奏して終わる。マーティン・スコセッシがその全貌を記録した映画「ラスト・ワルツ」のDVDには,そのインプロヴィゼーションが収録されているのだが,映画自体は最後に演奏されたこの「Don't do it」から始まる。ほぼ彼らの孫世代にあたる年齢のダニエル・ロアーがバンドの歴史をまとめたドキュメンタリー「ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった」は,歴史的なイベントとなったこの「ラスト・ワルツ」の最後の演奏に至る16年間の道程を鮮やかにに切り取ってみせる。たとえ彼らのファンでなくとも,僅かでもロックに興味を持つ音楽ファンならば,必見の作品だ。
亡くなったリチャード・マニュエルが「まるでブート・キャンプのようだった」と述懐するウッドストックでの修行時代。催眠術師を呼び寄せて行ったライヴ。「兄弟」の心を引き裂いていった薬とアルコール。そしてロビー・ロバートソンとリヴォン・ヘルムという二人のリーダーの間の確執。描かれているエピソードは,そのほとんどがロビーの自伝に書かれ,既知のものとなっているものばかりだが,ウッドストック時代のものが多い新たな写真やフィルムは,解散から40年以上の時間を経た厚みと重さを伴って圧倒的な存在感で迫ってくる。当時まことしやかに囁かれていた,デビューアルバムを聴いたエリック・クラプトンが「リズム・ギターで良いので,メンバーに入れてくれ」と懇願したという都市伝説が,本人の口から事実だったと語られるシークエンスは,なかなかに感動的だった。
典型的な田舎のロカビリー歌手だったロニー・ホーキンスのバックバンドとして出発したメンバーが,妻の影響を受けて「(イングマル)ベルイマンの映画をやりたい」と言い出すロビーとその他のメンバーに分かれていく図式には,晩年のビートルズにおけるジョン+ヨーコと,その他のメンバーという絵柄と重なるものがある。「ロビー・ロバートソン&ザ・バンド」という副題に偽りなしの内容で,そこに文句を付ける筋合いは何もないが,バンドを始めた当初の「リヴォン・ヘルム&ザ・バンド」という視点での物語を紡ぐことが,今となってはファンの頭の中でしか叶わないのが残念だ。作品の中で「ロック史上の3人のトップ歌手」と褒め称えられながらも,既に鬼籍に入ったリヴォンとリックとリチャードは,大ファンだったという中国文学者の井波律子さんに,あの素晴らしいハーモニーを聴かせているはず。思わぬ至福に感謝したい。
★★★★★
(★★★★★が最高)
亡くなったリチャード・マニュエルが「まるでブート・キャンプのようだった」と述懐するウッドストックでの修行時代。催眠術師を呼び寄せて行ったライヴ。「兄弟」の心を引き裂いていった薬とアルコール。そしてロビー・ロバートソンとリヴォン・ヘルムという二人のリーダーの間の確執。描かれているエピソードは,そのほとんどがロビーの自伝に書かれ,既知のものとなっているものばかりだが,ウッドストック時代のものが多い新たな写真やフィルムは,解散から40年以上の時間を経た厚みと重さを伴って圧倒的な存在感で迫ってくる。当時まことしやかに囁かれていた,デビューアルバムを聴いたエリック・クラプトンが「リズム・ギターで良いので,メンバーに入れてくれ」と懇願したという都市伝説が,本人の口から事実だったと語られるシークエンスは,なかなかに感動的だった。
典型的な田舎のロカビリー歌手だったロニー・ホーキンスのバックバンドとして出発したメンバーが,妻の影響を受けて「(イングマル)ベルイマンの映画をやりたい」と言い出すロビーとその他のメンバーに分かれていく図式には,晩年のビートルズにおけるジョン+ヨーコと,その他のメンバーという絵柄と重なるものがある。「ロビー・ロバートソン&ザ・バンド」という副題に偽りなしの内容で,そこに文句を付ける筋合いは何もないが,バンドを始めた当初の「リヴォン・ヘルム&ザ・バンド」という視点での物語を紡ぐことが,今となってはファンの頭の中でしか叶わないのが残念だ。作品の中で「ロック史上の3人のトップ歌手」と褒め称えられながらも,既に鬼籍に入ったリヴォンとリックとリチャードは,大ファンだったという中国文学者の井波律子さんに,あの素晴らしいハーモニーを聴かせているはず。思わぬ至福に感謝したい。
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