子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「BLUE GIANT」:ジャズを陽の当たる場所へと引っ張り出す強い力

2023年03月26日 10時48分30秒 | 映画(新作レヴュー)
映画の冒頭で主人公の大(テナーサックス)が東京で初めて立ち寄った店で「ソニー・ロリンズ,じゃなくてスティット」がかかるところが,この熱い作品の土台を象徴している。ロバート・グラスパーに代表される「現代の」メイン・ストリームではなく,「ジャズ喫茶」というどこか懐かしい日本語から立ち上ってくる空気をまとったジャズを指向する10代の若者の姿を描いた映画「BLUE GIANT」は,アニメーションで音を表現するという,ウォルト・ディズニーが「ファンタジア」で挑戦して以来,数多くのクリエイターが挑んできたチャレンジの最新型のモデルだ。その走りは先人たちが刻んできた軌跡とは少々異なるものの,そのエネルギーの総量は驚くべき水準に達している。

既に10年前から連載が始まっていたという原作のコミックを,映画として成立させようとした制作陣の意気込みが凄い。田舎のジャズ好きの青年が世界一のミュージシャンを目指して東京に出てきて新しい仲間と出会い,切磋琢磨しながら檜舞台に上るべく努力を重ねていく,という物語そのものは,青年向けコミックの王道であり,いまだに脅威のロングランを続けている「FIRST SLUM DANK」と基盤の部分で大きな違いはない。
異なるのはまず第一に題材がメジャーなスポーツではなく,「JAZZ」という一般的な意味での「ビッグになってやるぜ」的な世界観からは最も遠いところに位置するジャンルを選んでいるところ。二番目はコミックでは不可能だった「音」の表現が,映画においては既にちゃんと「サウンド」として表現されているにも拘わらず,敢えて映像としても見せる,という音像への二重のチャレンジをしている点だ。

上原ひろみをリーダーとする映画と同様のトリオ編成の演奏を鑑賞前から聴いてはいたのだが,大がステージ上で脚を踏ん張って吹くサックスから音符が流れ出すという「音の映像化」としては定番の表現ながら,色彩の選択も含めてまさにジャストなビジュアルに乗っかって,映画館の音響システムを存分に駆使した音が弾ける様は,予想を超える快感をもたらしてくれた。原作の卓抜な視点を更に膨らませた映画化チームの団結力は,まさにジャズ・コンボの魅力を体現したものと言える。最初に大が立ち寄った店のオーナーで,チャーリー・パーカーにとってのニカのような存在のママの涙を共有する歓びを是非。
★★★★
(★★★★★が最高)


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