子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

2023年春シーズン新作映画レヴューNO.1:「フェイブルマンズ」「エブエブ」など

2023年04月02日 13時34分00秒 | 映画(新作レヴュー)
「フェイブルマンズ」:スティーヴン・スピルバーグ
自伝的要素が強いという作品だが,主人公が愛する母親の秘密を,偶然撮影したフィルムの中に見つけてしまったというエピソードは実話だ,という監督の話にはのけぞった。特にアクション映画において,明るく屈託がないという印象が強いスピルバーグ監督作品の幾つかに潜んでいた得体の知れない「暗さ」の発信源を見たような思いだ。終盤のヤマ場となる高校卒業記念フィルムに映し出された自分の姿に衝撃を受けるアイドル男子のプロットでは,感銘よりも唐突感が上回ったものの,ラストでデヴィッド・リンチ扮するジョン・フォードが発する「地平線はどこにある?」という台詞が,作品全体とスピルバーグのその後をグリップしていて見事。
★★★★
(★★★★★が最高)

「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」:ダニエルズ
ブルガリアン・ヴォイスで幕を開けるマーティン・マクドナーの滋味深い作品やスピルバーグ渾身の自伝作品を押しのけて、今年のアカデミー賞において予想外の圧勝劇を繰り広げたのが、A24最大のヒット作となったダニエルズによる本作。ただ世評の高さとは裏腹にこの監督チームにとっての出世作「スイス・アーミー・マン」とは噛み合わせが悪かったので、多少の不安はあった。それでも監督コンビのひとりシャイナートの方が監督した「ディック・ロングはなぜ死んだのか?」という風変わりなコメディには大いに笑わせて貰ったので、それなりの期待もあったのだが、マルチバースを主題にした異次元アクションが全編で展開される当作は、やはりオスカーでの絶賛とは裏腹に「長い…」という感想がまず浮かんでしまった。アジア系俳優チームとジェイミー・リー・カーティスの奮闘も,いじり回しすぎたマルチバースの構造的な迷宮の谷底に沈んでしまったという印象。
★★

「丘の上の本屋さん」:クラウディオ・ロッシ・マッシニ
イタリアの田舎という言葉からイメージされる通りの風景の中にどっしりと根を生やした小さな村の佇まいに惹かれる。人口が少なくとも人生を楽しむ術は諦めない,という社会のあり方においてイタリアは遥か日本の先を行っていることに感銘を受ける。けれども物語は,余命短い書店の主人と読書好きの難民の少年の交流,という基本的なフレームから一歩もはみ出ないのが残念。主役二人に加えて,軽いフットワークでアクセントを付けるカフェの店員と,役者は揃っているのに,話に膨らみが足りないために,最後のプレゼントが「国連人権宣言」という捻りが生きなかった。
★★


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