子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

新作映画2021〜2022冬シーズンまとめてレビュー その2

2022年02月19日 20時37分00秒 | 映画(新作レヴュー)
「スウィート・シング」
アレクサンダー・ロックウェルの元妻がジェニファー・ビールスだったとは知らなかった。制作陣にはサム・ロックウェルの名もあるが,果たして彼も親戚なのだろうか。ロックウェルの25年振りとなる日本公開作品「スウィート・シング」は,現妻との間に生まれた二人の子供たちが主演として素晴らしい演技を見せ,その妻も主要な役で登場してくるという究極の「ファミリー・ムービー」の様相を呈していることから,そういうことまで気になってしまったのだが,そんな手作り感満載の小さなフィルムは,社会の格差に翻弄される家族の絆を優しい筆致で描き出した佳品だ。「ミナリ」で十字架おじさんを演じていたウィル・パットンが,同作とはまったく異なるキャラクターながらもニュアンス豊かな好演で,作品のフレームをより立体化している。タイトルがヴァン・モリソンの名曲と同名だと思ったら,劇中にそのまんま使われていた。やはり向こうでは「超大物」なんだな。
★★★★

「スティルウォーター」
マルセイユと聞いて即座に思い浮かぶのは,傑作だった第1作とは趣は違えど,重厚な展開で魅了した「フレンチ・コネクション2」だった。今なら「酒井宏樹」の元所属チームかな,と思っていたら,「スティルウォーター」の中で重要な役を演じるサッカーマニアの少女が,チームの大黒柱のひとりとして「サカイ」と口にするシーンが出てきて,実に誇らしい気持ちになった。臨場感溢れるサッカー場のシーンも見物のトム・マッカーシーの新作は,まるで実話のような衣を纏った「冤罪もの」のスリラーだ。脚本の構成力とマット・デイモンを中心とする俳優陣のアンサンブルの見事さによって,文字通り「後を引く」後味の悪さを獲得している。アビゲイル・ブレスリンがその姿も演技力も,予想された成長曲線通りの変貌を遂げていて嬉しくなった。
★★★★

「香川1区」
話題となった「なぜ君は総理大臣になれないのか」の続編が,衆議院議員総選挙を終えたタイミングで,緊急公開された。地元メディアを支配し,絶大なる影響力を誇る元デジタル担当大臣を破って当選した小川淳也議員の選挙戦の全貌がヴィヴィッドに描かれ,156分の長編ながら観客は弛緩することなく彼の駆る自転車に伴走することとなる。特に突然立候補を表明した維新の候補者に辞退を迫るエピソードは,これがリアルな政治の現場かという迫力で,下手なワイドショーよりも強い磁力で惹きつける。だが「決戦は日曜日」と比べると,監督のポジションが小川議員のお茶の間にまで入り込みすぎてしまったせいなのか,政治という厄介な「生もの」を丸ごと捉えようとしたドキュメンタリーとしては,どうにも居心地が悪い。勿論,巨大な地盤と看板を背景に,特定の会社を恫喝する慢心した議員よりも,高い志を持って国の未来を変えようとする小川議員の姿勢こそが尊いのは明らかなのだが,大島新監督の父親だった大島渚が撮ったTVドキュメンタリーには,対象へのシンパシーを描くための,敢えての「距離感」が確実に存在していた。「正直者は馬鹿を見る,と思っていたのですが…」と嗚咽した娘の言葉には涙を誘われたので,続編が出来れば必ず観る。なので,立ち位置の修正を是非。
★★★
(いずれも★★★★★が最高)


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