子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

新作映画2021〜2022冬シーズンまとめてレビュー その1

2022年02月13日 19時43分03秒 | 映画(新作レヴュー)
「ユンヒへ」
性的少数者が様々な形で表舞台で思いを語るようになり,その切実な声に耳を傾けられるようになった今でも,当事者の判断は様々だ。通じ合った想いを,そっと抱えて熾火として守り続けることを選んだ二人の女性の物語が,雪が降り積もった小樽の街を背景に語られる。
観光地として知られる小樽だが,映画の中で使われる有名なスポットはたった一箇所,小樽運河だけ。それもドラマティックな再会の場として選ばれつつも,クライマックスは潔いまでに省略され,カットが変わった時にはもう二人は別れた後。イム・デヒョン監督が選んだ声と作品のトーンは,あくまで低く静かなものだった。誰もが連想する「Love Letter」のこだまと対照的な声は,ひっそりと,けれどもしっかりと観客の胸に届いた。
★★★

「パーフェクト・ケア」
ロザムンド・パイクにとって「ゴーン・ガール」での大成功は,諸刃の剣だったかもしれない。その後のキャリアを見ると,ボランチとしては健闘しているけれども,その資質に合ったポジションはやはり「自信に満ちて冷血な策略家」なのではないか,という印象ばかりが残る。原題「わたしはちゃんとお世話します」=「パーフェクト・ケア」は,ちゃんとそこに配置されれば,こうやって確実にゴールを奪ってあげます,ということを証明した見本のような作品だ。
介護に絡んだダークなビジネスを取り上げたミステリーは多いが,ここまで切れ味の鋭い展開を見せた作品は極めて稀だ。パイクに対峙するピーター・ディンクレイジの凄みのある佇まいもあって,対決で生じる熱は沸点まで上昇する。ラストについては必要だったか,という印象は残ったものの,エンターテインメントとしては「最上質なケア」をお約束。
★★★★

「決戦は日曜日」
NETFLIXのドラマ版「新聞記者」は賛否両論を巻き起こしているが,今これをパッケージとして制作する意図や現実の事件と物語の差異といったことを論じる以前に,映画版と同じく「内閣情報調査室」のシークエンスが映っただけで,今度も駄目だ,と思ってしまった。現実の事件を描こうとしている時に,どこをどうやったらあんな「劇画」か3流のSF映画のようなセット・描写を繰り返す愚挙がまかり通るのだろうか。これをスタイリッシュと評する評論を目にしたが,その反対の方向性を貫き通した坂下雄一朗監督の「決戦は日曜日」の方が,何倍も映画に対しての誠実さを内包している。
病に倒れた政治家の父親の後を継ぐべく,政治的信条も,政治的な策略も持たない娘(宮沢りえ)が立候補し,その奔放な行動に秘書(窪田正孝)たちが振り回される様を通じて,政治の現場を炙り出したコメディは,記憶を失った首相を主人公にした「記憶にございません!」のような見るに堪えない,笑えない大作が裸足で逃げ出すような鋭さと楽しさに満ちている。怒りと笑い,諦念と希望が同居するこんな貴重な小品こそ,世界中に配信して貰えないものだろうか。
★★★☆


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。