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映画「アメリカン・ギャングスター」:時空を越えて辿り着いた血みどろのホームドラマ

CMディレクターから出発し,「エイリアン」で最初のヒットを飛ばして以降,「ブレードランナー」,「ブラック・レイン」,「テルマ&ルイーズ」,そして「グラディエーター」と続く,リドリー・スコットの煌めくようなフィルモグラフィーの中でも,一際輝きを放つ秀作。家族と犯罪と業を同じ地平で捉えながら,社会や国家の枠組みの根底にある欺瞞を突く舌鋒は鋭く,映像的な冒険はエキサイティングで,ベトナム戦争と同時に流れていく157分に込められた情報量と思いに圧倒される。

軍の知人を使ってタイから麻薬を密輸し,財を成した闇の帝王と,自らの親権を懸けた離婚裁判に足を取られ,警察内で孤立しながらも,彼を追いつめる捜査官。ラストに至るまで直接顔を会わせることなく,淡々と進んでいく二人の戦いを,緊張感を持続させながら描ききったスティーヴン・ザイリアンの筆力が,リドリー・スコットの映像に対する嗅覚と拮抗して,近年あまり流行らないらしい「社会派娯楽作品」を生み出した。
強い信念を持ち,家族を愛しながらも,自分では変えられない運命に翻弄される,鏡像のような二つのキャラクターを,小さなエピソードを積み重ねて丹念に描写するリドリー・スコットの姿勢は,ラッセル・クロウ演じるリッチー・ロバーツ捜査官の生き方にダブる。

それまで捜査の網に引っかからなかったフランク(デンゼル・ワシントン)が,心ならずも捜査の手がかりをリッチーに与えてしまうのが,妻への心配りだったというエピソードや,フランクと母とのやり取り,更にはリッチーの捜査チームの描写も,ドラマに厚みを与えている。
そして,テレビ画像をさりげなく,かつ頻繁に画面に登場させ,同時に麻薬の調達先としての軍部の描写を絡めることで,ベトナムの泥沼に嵌まっていった1960年代後半のアメリカのもがきぶりを鷲掴みにしてみせたカメラは,同時代に起こった連続殺人事件を粘り強く,立体的に描き出した傑作「ゾディアック」と同じハリス・サヴィデス。悪徳警官に汚れた血を通わせたジョシュ・ブローリンやフランクのママ役のルビー・ディーなど,脇を固めた役者も含めて,適材適所の人材配置が挙げた成果は,フランクの逮捕に劣らない見事なものだ。

実話ということなので,信じるしかないのだが,ザイリアンのオリジナルだったとしても舌を巻いたであろう驚愕の逮捕劇から,裁判,そして目にも鮮やかな結末には恐れ入った。少々多すぎる,と言う人がいるかもしれない流血の量に騙されてはいけない。路地裏の出来事にこそ学ぶべき歴史がある,という点で,スコセッシの「グッドフェローズ」と双璧を為す。どっちも監督がアングロサクソン系のアメリカ人ではない,というところが肝なのかもしれない。
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