子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「ダージリン急行」:列車は行くよ,迷いを載せて

2008年03月15日 12時22分11秒 | 映画(新作レヴュー)
ウディ・アレンが掘り当てた「軟弱なインテリ都会人の悩み多き人生」という鉱脈の採掘人に名乗りを上げた,才人ウェス・アンダーソンの最新作。
「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」,「ライフ・アクアティック」の2本と同様に,すかした案配も,情けなさの度合いも,しみじみの加減も,じつにしっくりとくる。
世界は小さいが,描きたいものとそのアプローチがくっきりと見えているクリエイターの仕事は,実に心地よい。

これまでと同様,基本的なモチーフは「家族」。今回は父の死に際して葬儀に参列しなかった母を訪ねて,3兄弟がインドを旅する。セクシーなアテンダントや毒蛇,ドイツ人の旅行客に行く手を阻まれ,8歳児レヴェルの兄弟喧嘩を繰り返しながらも,家族だけが持つ独特の温度が,それぞれの悩みを少しずつほぐしていく様子が,インドの大地との対比でちんまりと浮かび上がる。

全編を通じてそこはかとない笑いが漂う中で,至る所に「死の影」が顔を覗かせるのもアンダーソン作品らしい。父の死に始まり,長男の事故,途中で遭遇する子供の死,母の働く場所でのトラ騒動等々。
これらは全て,山上で石を積む儀式によって象徴的に弔われたと思わされるのだが,ラスト,3人が父の形見であるスーツケースを放り投げながら列車に乗り込むハイスピードのワンカットによって,そんな思い込みはひっくり返される。得体の知れない感情と現実の間に横たわる溝に,丸太を切り倒して架橋するような演出には,前作「ライフ・アクアティック」の船体輪切りのクレーンショットと同様に,ひ弱なインテリの底力が脈打っている。

3兄弟を演じる若手3人もすばらしいが,やはり最後に出て来てアップのショット1発でさらってしまうアンジェリカ・ヒューストンの存在感は凄い。子供達に「どうしてお父さんの葬式に来てくれなかったの?」と問われ,「出たくなかったから」という台詞で納得させてしまうのは,この人の貫禄ならではだろう。

そこはかとない旅情を漂わせながらも,「あぁ,インドに行ってみたいなぁ」とは思わせないところが,達人の証か。
「大地のうた」3部作で知られるインド映画の巨匠,サタジット・レイの作品で使われた曲をサンプリングしたという音楽と,ザ・バンドの「南十字星」のジャケットにそっくりな構図の焚火のシーンが美しい。


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