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映画「アネット」:まさかスパークスの時代が来るなんて,と驚いてはみたものの

2022年04月24日 20時52分41秒 | 映画(新作レヴュー)
前作「ホーリー・モータース」の中盤で,物語を加速させたマーチングのシークエンスに手応えを感じたからなのかどうかは分からないが,レオス・カラックス10年振りの新作はなんとミュージカルだった。しかもまるでオペラのようなフレームを持ったファンタジーの中核を担ったのは,50年のキャリアを誇る兄弟グループのスパークス。彼らの音楽を聴く度に,残念ながら分裂してしまったKIRINJIが,もしも仲良くデュオを続けていたらどうなっていたかと想像してしまう程に特異な個性を持ったグループの創り出す世界と,これまた唯一無二の映像世界を堅持し続けるカラックスのコラボレーションと聞いただけでも胸が躍った。更にそんな奇跡のような出逢いに花を添えるために集結した俳優はアダム・ドライヴァーとマリオン・コティヤールという当代きっての手練れたち。果たして彼らが集った磁場に,文字通りの「スパーク」は生まれたのだろうか。

結論から言うとカラックス流のビルドゥングスロマンは,確かにスパークはしたものの,その火花は暴発によって生み出された炎上の投影だったようだ。
もともとスパークスは幾つかのシングルヒット曲をちりばめて,その隙間を新曲で埋めてアルバムを作り上げる,といった「売れ線」手法とは無縁のアーティストであり,ひとつのコンセプトを基に統一感のある「オペラ」を編み上げるのが特徴であるだけに,映画の「原作」として使われることにはもってこいの存在のように思えた。一方で,緻密に練り上げられた歪な空間は,他の個性による異なった解釈を包摂する糊代を持ったものではなかったことが,今回のケースではマイナスの方向に働いた。純粋にスパークスの世界に浸ることが約束されている,近日公開予定のエドガー・ライトによるドキュメンタリーであれば,そういった心配は必要なかったのだが,ふたつの電極を接触させることで新たな物質を生み出そうと試みた今回の賭けは,電極のみならず電源装置をも毀損する結果となった。

火花によって焦げ付いた跡は無数にあるのだが,一番象徴的だったのはアネットを「人形」にしたアイデアそのものだろう。カラックスの発想を独創的と褒め称える評も目にしたが,今年のスーパーボウルのハーフタイムショーを見た後では,アネットの沈黙による「惨劇」自体が「アネット」の評価と被ってしまった。スパークスの感想や,如何に。
★★
(★★★★★が最高)


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