どう見ても一般受けするとは思えなかった怪獣映画によって,思いがけず世界中から喝采を受けることとなったメキシコの俊英ギジェルモ・デル=トロの新作。今回彼の元に集まった超豪華な俳優陣をサッカーチームに喩えると,ワントップがブラッドリー・クーパーで,ボランチはケイト・ブランシェット。シャドウ・ストライカーにルーニー・マーラを配して,CBはウィレム・デフォーにリチャード・ジェンキンス。更に両サイドバックはトニ・コレットとデヴィッド・ストラザーンと来れば,まさに硬軟自在な戦術を持った百戦錬磨のドリームチームだ。ゴールデン・ブーツならぬアカデミー賞に輝いた名匠が率いる,昭和の宣伝文句を使えば「春のオールスター総出演」作品「ナイトメア・アリー」は,その重量感にしては随分と地味な仕立てでの公開となったが,結果的には確かに「売る」ことが難しい作品となってしまったようだ。
「人か獣か?」というサーカスの出し物についての惹句を前面に押し出した予告編を観て,本編を観るまでは「シェイプ・オブ・ウォーター」に続いて異型の存在にスポットライトを当てた作品だと思っていた。実際に前半はサーカスの中が舞台となっており,特に見世物としての映画とサーカスとの親和性を存分に発揮した美術は,ずらりと芸達者を揃えた俳優陣を凌駕するほどの見事な仕事を見せている。「シェイプ〜」の研究所内部も「大人の社会見学」対象としては最高に魅力的なスポットだったが,本作のサーカス小屋のあちこちに存在する闇もまた,子供なら絶対に夜ひとりでトイレに行けなくなるレヴェルの妖しい魔力を湛えていた。
けれどもそんな魔力は,主人公ペア(クーパー&マーラ)がサーカスに見切りを付けて,金持ち相手のコンゲームと追憶劇に入った途端にパワーを失ってしまう。ボランチ役のケイト・ブランシェットが的確なポジション取りで展開の穴を埋め,メアリー・スティーン=バージェンがその品格によって何とかお伽噺をリアルな物語に高めるべく奮闘するものの,物語全体を救うことは出来なかった。大芝居というよりもほとんど猿芝居に堕してしまうクライマックスに至っては,悲劇を通り越して失笑を買うレヴェルであり,何故こんな茶番が70年という歳月を超えて再映画化されたのか,ついぞ理解することは叶わなかった。
それでも同じくサーカスを舞台にしたトッド・ブラウニングの「フリークス」を想起させるエンディングには,道徳的とは言えないB級映画への敬意が深く滲んでおり,ティム・ブレイク=ネルソンの渋い演技への喝采と共に,星をひとつ追加。
★★★
(★★★★★が最高)
「人か獣か?」というサーカスの出し物についての惹句を前面に押し出した予告編を観て,本編を観るまでは「シェイプ・オブ・ウォーター」に続いて異型の存在にスポットライトを当てた作品だと思っていた。実際に前半はサーカスの中が舞台となっており,特に見世物としての映画とサーカスとの親和性を存分に発揮した美術は,ずらりと芸達者を揃えた俳優陣を凌駕するほどの見事な仕事を見せている。「シェイプ〜」の研究所内部も「大人の社会見学」対象としては最高に魅力的なスポットだったが,本作のサーカス小屋のあちこちに存在する闇もまた,子供なら絶対に夜ひとりでトイレに行けなくなるレヴェルの妖しい魔力を湛えていた。
けれどもそんな魔力は,主人公ペア(クーパー&マーラ)がサーカスに見切りを付けて,金持ち相手のコンゲームと追憶劇に入った途端にパワーを失ってしまう。ボランチ役のケイト・ブランシェットが的確なポジション取りで展開の穴を埋め,メアリー・スティーン=バージェンがその品格によって何とかお伽噺をリアルな物語に高めるべく奮闘するものの,物語全体を救うことは出来なかった。大芝居というよりもほとんど猿芝居に堕してしまうクライマックスに至っては,悲劇を通り越して失笑を買うレヴェルであり,何故こんな茶番が70年という歳月を超えて再映画化されたのか,ついぞ理解することは叶わなかった。
それでも同じくサーカスを舞台にしたトッド・ブラウニングの「フリークス」を想起させるエンディングには,道徳的とは言えないB級映画への敬意が深く滲んでおり,ティム・ブレイク=ネルソンの渋い演技への喝采と共に,星をひとつ追加。
★★★
(★★★★★が最高)