子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「アイ,トーニャ」:マーゴット・ロビーの女優根性に拍手

2018年05月27日 17時32分04秒 | 映画(新作レヴュー)
職場の20代の若手に「トーニャ・ハーディングの殴打事件と靴紐事件って知ってる?」と訊いたら,「知りません。靴紐事件と言ったら,織田信成でしょ」と返された。当たり前か。
24年前のスポーツの世界のスキャンダルを,こんな形で映画化するなんて,しかも「ラースと,その彼女」みたいな地味なアート系映画の演出家を抜擢して,滅法「面白い」娯楽映画に仕立ててくるなんて,思いもよらなかった。
ただそれもマーゴット・ロビーとアリソン・ジャネイという,演技も存在感もヘヴィー級の女優二人の熱演あったればこそ。ロビーの見事なスピンには,観客の平衡感覚をも狂わせてしまうようなスピードとパワーが漲っている。

ものの見事に「バカ」しか出て来ない。それも「超」のつくバカばかりだ。才能に恵まれ,努力も惜しまないトーニャが,親としても,夫としても,友人としても失格と言うしかない取り巻きを,何故か振り払うことが出来ずに,よりによって何故そんな選択を,という判断を繰り返す様は,笑いと驚きと呆れが入り混じったロールプレイングゲームのキャラクターを見ているようだ。
けれども,今の時代ならば間違いなくトランプ支持層のど真ん中と思われる貧困白人層からの,特異ではあるけれども,実際に起こった「脱出劇」は,何だか知らないけれども異様なパワーを観客に与えてくれる。
終盤で,とうとう改心したような様子で娘に近付いて来る母が,マスコミから仕込まれたレコーダーをちゃっかりとポケットに忍ばせていた,というエピソードには,感動アスリートドラマなんてマスコミのでっち上げ,と言わんばかりの実話故の強さがある。その意味で,エンド・クレジットと共に映し出される実際の出演者を写したヴィデオも必見だ。

もの凄い練習を重ねることにより,本当にジャンプしたりスピンしたり出来るようになってしまったというロビーの滑走シーンが,映画全体のベースを作っている。大柄なロビーが大きなストライドで疾走し,氷を削ってスピンする姿は,金を持っているものだけが君臨できるフィギュア界に,根性で風穴を開けようとしたトーニャの汗と涙とど根性と,完璧にシンクロする。
引退後もプロのファイターとなって,リアル格差社会と格闘し続けるトーニャの姿は,余力を残して引退し,自分探しを続ける某有名サッカー選手よりも,遥かに混迷の時代のロールモデルとなることだろう。
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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