子供はかまってくれない

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映画「スキャンダル」:決して団結しない「チーム」の強靱さ

2020年03月07日 13時33分31秒 | 映画(新作レヴュー)
昨日発表された「日本アカデミー賞」では,東京新聞の望月衣塑子記者の著書にインスパイアされた「新聞記者」が作品賞に加え,主演男女優賞などの主要賞を総なめにした。これまでに数多くの受賞歴がある作品とは言え,セレモニーの放送権が,現政権に近いと言われている読売新聞系の日本テレビだったことを考えると,なかなかのサプライズだったという印象を受ける。だが,日本映画としてはかなりのチャレンジだったこの作品でさえも,登場人物やエピソードはすべて「架空」という防御壁で守られていた。日本で実際の事件や出来事を作品のエレメントとしてダイレクトに取り入れることの難しさを痛感する,という意味でも,「新聞記者」の制作意義は大きかったと思うが,ジェイ・ローチの新作「スキャンダル」を観ると,アメリカのショービズ界の懐の深さは「腐っても鯛」だということを改めて思い知らされる。劇中でも描かれるFOXニュースとトランプ政権との近さなど屁とも思わない突進力は,「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」で見せた勢いそのままだ。

アメリカに帰化したメイクアップ・アーティストのカズ・ヒロが,シャーリーズ・セロンを実在のキャスターであるメーガン・ケリー本人に似せた技術が,見事二度目のオスカー戴冠に輝いたことで話題を呼んだが,劇中でCEOをセクハラを提訴するのはニコール・キッドマン扮するグレッチェン・カールソンの方だ。物語は女性の尊厳を賭けて勇気を奮ったグレッチェンを,会社内の出世階段を順調に上ってきたメーガンが,果たして自分のキャリアを危険に晒してでも共闘するかどうか,というプロットを軸として展開していく。

舞台となるFOXニュースは,言うまでもなくトランプ政権を支持する超保守的なメディア。そこでキャスターとして活躍するメーガンもまた共和党支持者である,というところが物語に襞を与えている。同時にマーゴット・ロビーが演じる,これから社内でのし上がっていくべくCEOにアプローチする若手のカイラはどうやらノンポリのようだが,同僚のルームメイトは民主党支持者。会社の中の出世すごろくと各々の政治信条,そして自尊心のせめぎ合いが,単なる「弱者がチームを組んで巨悪を倒す」的爽快アクションを超えるダイナミズムを生み出している。フライヤーの写真にあるような,3人の女性が「ファイト,オー!」とスクラムを組む訳ではないことが,一筋縄では行かない物語を象徴している。
同じく実録ものでブッシュ政権下のドタバタをそっくりメイクで活写したアダム・マッケイのコメディ「バイス」と比べても遜色ないどころか,ドラマの奥行きという点では,こちらに軍配が上がる出来映えだ。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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