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映画「ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打ち上げ計画」:インド版「ドリーム」を超えるパワー

2021年02月06日 12時33分08秒 | 映画(新作レヴュー)
日本語がおかしい。インド映画「ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打ち上げ計画」のサブタイトルを見て最初に思ったのは,「火星を打ち上げることは出来ないだろう」ということだった。フライヤーの見出しには「火星探査機打ち上げを成功させた奇跡の実話」とちゃんと書いてあるのに,どうしてこんなやっつけ仕事をしたのだろう。この国で国語に携わる何人いるか分からないけれども,おそらく相当数いるであろう職業人に,日本語の表現に敏感な人を加えるとかなりの数に及ぶと思われる観客予備軍を,配給元の「アットエンタテインメント」が逃してしまったのは返す返すも残念だ。それくらい「ミッション・マンガル(以下省略)」は,パワーに満ちた真の女性賛歌として,見逃すことのできない秀作だったからだ。

中心的な役割を果たしていた重要なプロジェクトに失敗し,窓際的な存在と化していた火星探査機打ち上げ計画チームに飛ばされたタラとラケーシュは,女性中心のチームを率いてこの困難なミッションに挑むことになる。しかしチームの行く手にはメンバーの経験不足,家庭のマネジメント,強い女性蔑視の風潮,子供の改宗問題や反発,そして少ない予算という大きな壁が立ちはだかっていた。彼らはそんな障害を乗り越えて,ミッションを成功させることは出来るのか。

実話なので,もちろん答えは「できた」だ。そんな,観客は既に結末を知っている予定調和の物語,という制約を超えて観客を揺さぶることはできるのか,というミッションを課せられた「パッドマン5億人の女性を救った男」の制作陣は,その視点を宇宙ではなく,前作と同様に「家庭」と「個人」に深く入り込むという戦術を選択した。構えとしてはNASAの草創期にマーキュリー計画を支えた黒人の女性技術者を描いた「ドリーム」によく似ている。ご丁寧に崖っぷちチームの行く手を阻む「敵役」としてNASAに在籍していた男性至上主義のヴェテランまで配しているくらいだ。「ドリーム」との差別化は,宇宙開発という特殊なミッションを,どこまでも彼女たちの家庭,個人生活の延長線上で捉えようとした点だ。
燃料を節約するための飛行術を台所での調理から発想しつつ,盛り場に出かけた子供を引き戻すために「お約束のダンス」を披露する。自然体で困難な課題に体当たりしていく彼女たちの姿は実に美しい。

フライヤーによるとこのプロジェクトにかかった費用は7400万ドルとのこと。幻に終わったがドル換算で1億5000万ドルと言われた東京2020の開会式と比べてしまうとその差は顕著だ。森会長にこそ観て欲しい。って,観るわけないか。
★★★★
(★★★★★が最高)

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