子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。
子供はかまってくれない
映画「エル・クラン」:「家業」としての誘拐実録もの
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前回のW杯での活躍で初めて知ったのだが,アルゼンチンにおけるラグビー人気の高さと強さというのは,30年近く前から現在までずっと続いてきているようだ。
その事実を知ると,本作で描かれた「ラグビー代表選手が誘拐犯罪に絡んでいた」というスクープが,アルゼンチン国内で当時どれだけ大きな反響を呼んだのか,想像が膨らむ。「父の期待と子供の希望のギャップ」というモチーフが,衝撃的なラストシーンを持ち出すまでもなく,本作の中でもとりわけ重いテーマとなっていることが,アルゼンチンのそんなスポーツ事情からも酌み取れる。今のサッカー日本代表の誰かが,家族が主導する誘拐事件に加わっていたとしたら…。清原事件の比ではない騒ぎになること請け合いだ。
アルモドバルが制作に回った実話の映画化作品と聞いたので,てっきりスペインの話かと思ったら,アルゼンチンの,しかもフォークランド(マルビナス)戦争直後の混乱期の話だった。
当時のアルゼンチンの国内事情がどんなものだったのか。かの国に対してまったく土地勘・歴史観のない私には知る由もないのだが,作品の中で描かれているように政府高官に知り合いがいるだけで犯罪捜査に手心を加えて貰うことが期待できる程度には,腐敗が日常的なものであったことは間違いないのだろう。
仮にそうだとしても,誘拐を「家業」として営む一家が存在したという事実を知ったアルモドバルが,興味を惹かれて映画化に走ったというのは,素直に納得してしまう巡り合わせと言える。
冒頭から繰り返される疑似一人称視点を用いた誘拐場面が象徴するように,カメラは誘拐とその後に続く監禁状況を,静かにと言っても良いくらいの筆致で淡々と描き出す。家族の中には,父親がそんな犯罪行為を家の中で何度も繰り返していたという事実を知らない娘まで存在していたという驚愕の事実も,パブロ・トラペロが作り出す独特のリズムの中で,妙な説得力を持ってじわじわと浮き彫りにされていく。
確かに物語自体はユニークで,最後まで画面から目を離させない吸引力は,ヴェネチアの監督賞に相応しいものかもしれない。だが実録ものの宿命かもしれないが,事件のユニークさや衝撃度に比べると,リアルとフェイクの隙間から滲み出てくる余韻のようなものの濃度は思った程高くはない。アルモドバルの関与によって,こちらが必要以上にハードルを上げすぎたせいかもしれないが,長男のダイブという衝撃的な幕切れの後に続く字幕「父親は獄中で弁護士の資格を取った」という更なるサプライズまで含んで,まるごと「犯罪一家のクロニクル」としてドラマティックに謳い上げる,というアプローチは取れなかったものか。採点は,長男が見せたトライの爽快さに欠ける恨みを反映してこんなところで。
★★★
(★★★★★が最高)
その事実を知ると,本作で描かれた「ラグビー代表選手が誘拐犯罪に絡んでいた」というスクープが,アルゼンチン国内で当時どれだけ大きな反響を呼んだのか,想像が膨らむ。「父の期待と子供の希望のギャップ」というモチーフが,衝撃的なラストシーンを持ち出すまでもなく,本作の中でもとりわけ重いテーマとなっていることが,アルゼンチンのそんなスポーツ事情からも酌み取れる。今のサッカー日本代表の誰かが,家族が主導する誘拐事件に加わっていたとしたら…。清原事件の比ではない騒ぎになること請け合いだ。
アルモドバルが制作に回った実話の映画化作品と聞いたので,てっきりスペインの話かと思ったら,アルゼンチンの,しかもフォークランド(マルビナス)戦争直後の混乱期の話だった。
当時のアルゼンチンの国内事情がどんなものだったのか。かの国に対してまったく土地勘・歴史観のない私には知る由もないのだが,作品の中で描かれているように政府高官に知り合いがいるだけで犯罪捜査に手心を加えて貰うことが期待できる程度には,腐敗が日常的なものであったことは間違いないのだろう。
仮にそうだとしても,誘拐を「家業」として営む一家が存在したという事実を知ったアルモドバルが,興味を惹かれて映画化に走ったというのは,素直に納得してしまう巡り合わせと言える。
冒頭から繰り返される疑似一人称視点を用いた誘拐場面が象徴するように,カメラは誘拐とその後に続く監禁状況を,静かにと言っても良いくらいの筆致で淡々と描き出す。家族の中には,父親がそんな犯罪行為を家の中で何度も繰り返していたという事実を知らない娘まで存在していたという驚愕の事実も,パブロ・トラペロが作り出す独特のリズムの中で,妙な説得力を持ってじわじわと浮き彫りにされていく。
確かに物語自体はユニークで,最後まで画面から目を離させない吸引力は,ヴェネチアの監督賞に相応しいものかもしれない。だが実録ものの宿命かもしれないが,事件のユニークさや衝撃度に比べると,リアルとフェイクの隙間から滲み出てくる余韻のようなものの濃度は思った程高くはない。アルモドバルの関与によって,こちらが必要以上にハードルを上げすぎたせいかもしれないが,長男のダイブという衝撃的な幕切れの後に続く字幕「父親は獄中で弁護士の資格を取った」という更なるサプライズまで含んで,まるごと「犯罪一家のクロニクル」としてドラマティックに謳い上げる,というアプローチは取れなかったものか。採点は,長男が見せたトライの爽快さに欠ける恨みを反映してこんなところで。
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