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映画「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」:エネルギー溢れるお下劣賛歌

職業をジェンダーで括ることについて,様々な意見があることは十分に承知しているが,数の上では明らかに「少数派」だった女性監督の進出という点で,2020年が記憶すべき年になることは間違いないだろう。「ストーリー・オブ・マイライフ」のグレタ・ガーウィグ,「ハーフ・オブ・イット」のアリス・ウー,「ぶあいそうな手紙」のアナ・ルイーザ・アゼヴェードといった「良心作」の作り手による素晴らしい作品群の後に続いたのは,個性派女優オリヴィア・ワイルドによる下ネタ満載の熱いコメディだった。制作陣に名を連ねるウィル・フェレルとアダム・マッケイの名前を借りなくとも,見事にコメディの王道を往く作品に仕上げた腕前は,自身がハリウッドで独自の地位を築き上げた最大の武器である「艶っぽい目力」を凌ぐものだった。

高校卒業を明日に控えたイケてない二人組モリーとエイミーは,3年間遊び回っていたように見えたイケてたグループが,何故か自分たちと同じエリート大学や花形企業に進むことを知る。遊びを我慢してひたすら真面目に勉強していた二人は,思いもよらない現実に愕然となるが,せめて最後の一日は彼らと同様に高校生活をエンジョイすべきと決心し,花形グループが開く卒業前夜のパーティーに乗り込む。ところがそんな二人の前に,金は持っているけれどもやはりイケてない同級生や校長先生,更には指名手配中の殺人犯迄現れて,高校最後の夜はとんでもない騒ぎになるのだった。

高校生生活最後の日々,というテーマで言うと,先に挙げた「ハーフ・オブ・イット」や同じくガーウィグの監督デビュー作「レディ・バード」などが思い浮かぶが,下ネタやゲロネタが満載の本作のテイストが近いのは,40年近く前の作品で,やはり女性監督エイミー・ヘッカリングの監督作だった「初体験/リッチモンド・ハイ」の方だろう。若者の性への衝動を内包したコメディの体裁を取りつつ,短い青春の日々の儚さを巧みに表現した同作は,公開後20年以上の歳月を経てアメリカ国立フィルム登録簿に永久保存されたが,本作も同様にクラシックとなる可能性を秘めている。
特にレズビアンのエイミーの背中を押すモリーの姿から伺える,LGBTQを若者の普遍的な悩みのひとつとして,クール&フラットに捉えるワイルドの視線は,2020年代のスタンダードを定めたという印象を受ける。公式HPによると既に2作の待機作が控えているという彼女の未来は,一夜にして逆転を果たしたエイミーとモリーの高校生活と同様に眩しく輝いている。
★★★★
(★★★★★が最高)
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