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映画「TENET テネット」:ノーランの頭の構造に興味がある方限定の意欲作

2020年10月04日 11時04分33秒 | 映画(新作レヴュー)
クリストファー・ノーランの新作「TENETテネット」が公開後,2週続けて興収第1位になったというニュースには,驚かされた。かなり早い段階から「凄い」「これまでの時間操業ものの最高峰」といった業界内の高い評判が伝わってきてはいたが,COVID-19禍により公開が延期されたことにより,観客側の渇望感が更に高まったことも相俟っての猛ダッシュとなったのかもしれない。内容的には,ノーランの名を世界に轟かせた「メメント」を上回る高度な構成を持った作品に仕上がっており,その難解さや作家の視点のユニークさという点で,作品の経路はまったく異なるゴダール作品と共通の感触を持った人間としては,正直置いてきぼりを食った思いだ。

オペラハウスで起きたテロに参加していた男が,未来で開発された「時間を逆行する装置」を使って世界を救う,というミッションを与えられ,やはり未来からやってきた素性の分からないパートナーと共に,巨大な敵と立ち向かう。メインプロットはシンプルなのだが,そこにこれまで数多作られてきた単純なタイム・スリップものと決定的に異なる「物語自体の時間は一方向に進み続けている」「けれどもあるドアを出入りすることによって時間を遡行・巡行することが出来る」というルールが立ちはだかる。

最初,そのルールを理解できないままに画面を凝視している間は,どうしても旧来の「過去に遡る」意識が邪魔をして,そもそも何が起こっていて主人公はそれにどうコミットしているのかが把握できず,最初の混乱状態に陥った。やがて左右の開き方で役割が反対となるらしい「時間遡行ドア」の機能がぼんやりと分かってくると,プロットの輪郭がやや掴めそうになってきたのだが,今度は画面で展開している攻防における敵と味方の区別が曖昧になり,それを頭の中で整理しようとしているうちに,アクションのテンションがどんどんと上がってきて,更に混迷度は深くなる,という悪循環に陥ってしまった。

ノーランが設定した「テネット・ルール」を追いかけるのに疲れ果てた結果,ホイテ・ヴァン・ホイテマが作り出すシャープな構図や,黒幕セイター(ケネス・ブラナー)の死体がボートに引っ張られて上がってくる「太陽がいっぱい」へのオマージュのようなショットや,セイターの妻役のエリザベス・デベッキの11頭身くらいありそうな人間離れしたプロポーション,更には映画館ならではの立体的な音響等々,本題以外のところで元を取ろうとした私のような少数派の観客は,尻尾を巻いて逃げ出したのだった。
★★
(★★★★★が最高)


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