子供はかまってくれない

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Scritti Politti「Cupid & Psyche 85」:アレサ・フランクリンのように

2007年12月08日 23時40分36秒 | 音楽(アーカイブ)
ヴォーカルのグリーン・ガートサイドを中心に結成されたスクリッティ・ポリッティは,ソウルミュージック風味のフォークソングに,哲学や政治を扱った歌詞を載せた風変わりな音楽で,独立系のレコード会社「ラフトレード」からデビューした。
1982年に出たファースト・アルバムは,チープなリズム・ボックスを逆手に取ったビートに,グリーンの柔らかいファルセット・ヴォイスが絡んで生み出されたユニークな曲の数々によって,ブリティッシュ・インベイジョンの波からは少しずれた場所で,新しいダンスミュージックの誕生を告げるものとなった。

その1stアルバムにも感じられたソウルミュージックへの憧憬を,当時の最先端を行っていた機材とアリフ・マーディンという重鎮プロデューサーのタクトという合わせ技によって,それまで誰も聴いたことがないような立体的な音像として再構築した結果が,このセカンドアルバムだ。

アルバムに先行して発表された「Wood Beez」を聴いた時に感じたのは,有能だけれども観客のいない土のグラウンドでしかプレーしたことのないコートジボワールのサッカー選手が,請われて欧州に渡って満員のカンプノウに立ち,初めてその才能を世界に披露する瞬間を目撃した,というようなイメージだった。グリーンの伸びやかな声が,音の粒が見えるようなフェアライト(シンセサイザー)とギター,スネアドラムのせめぎ合いの隙間を縫うように聞こえて来た時,ここからダンスミュージックと電子楽器の蜜月が始まる,と私は確信したものだった。

しかしセカンド(及びサード)アルバムの高い完成度と斬新さは,音楽ファンを歓喜させると同時に,それと同量の呪縛をグリーン本人にかけてしまったようだ。
その後,スクリッティ・ポリッティはこのアルバムから3年後,マイルス・デイヴィスとの共演曲を含む3rdアルバム「Provision」を発表して,この路線を突き詰めたのだったが,そこから第4作まではなんと11年というインターバルを要することとなってしまったのだ。

ただ,セカンドから21年という歳月を経て,昨年発表された第5作「White Bread Black Beer」が,自宅録音という小さなプロダクションによって作られながらも,ファーストにあったフォーキーな手触りを取り戻すことによって,新たな地歩を固めつつあることを確認した今,ようやくこの大傑作セカンドもあるべきポジションを見つけたように思える。
先述した「Wood Beez」の歌詞の中で,自らの思慕を吐露したアレサ・フランクリンの名唱のように,愛され続けるエバーグリーンとなるクオリティは保証出来る名盤だ。


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