子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。
子供はかまってくれない
映画「マリッジ・ストーリー」:「言葉に出来ない」感情を表現する果敢な試みは,配信作品だけになってしまうのだろうか
フランソワ・トリュフォー作品に欠かせなかったジョルジュ・ドルリューの軽快なメロディで幕を開けた「フランシス・ハ」で,繊細な「イカとクジラ」時代に別れを告げ,軽やかに柔らかく変身を遂げたように見えたノア・バームバックは,NETFLIXで撮った「マリッジ・ストーリー」でまたもや鋭い転調を見せる。スカーレット・ヨハンソンとアダム・ドライバーという,当代きっての売れっ子俳優二人とのコラボレーションで,夫婦というフレームを揺さぶるバームバックの手腕は鮮やかだ。
マイナーな劇団の演出家と主演女優の夫婦は,お互いに尊敬し合いながらも別々の道を行くことで合意し,離婚を前提に話し合いを続けていた。ところが話し合いが進展しないことから妻が弁護士を雇ったことによって二人の交渉は,話し合いによる妥協点の探り合いから,全面対決へと様相を変えていく。
夫婦二人(ヨハンソンとドライバー)に加え,妻とその弁護士(ローラ・ダーン),妻と息子,夫と息子,そして法廷でのやり取りと,様々なシチュエーションで,お互いに容易には形にならない感情を言葉に代えた上で,離婚後の具体的な生活形態の整理をする,という厄介な作業が,高い密度と温度とテンションを保った会話によって続けられる。そこでことを「厄介」にしているのは,二人が完全に敵対関係にあるのではなく,芸術を追究する同士という枠を超えて,尊敬とある種の愛情を抱え続けているからだ。元の鞘に収まることは不可能なことを理解しつつ,愛する子供に対する親権という,何事にも代えがたい権利を巡って本音を剥き出しにして争う二人の時間は,実はそれ自体が大きな「マリッジ・ストーリー」の一部なのだと思えてくる。ジェニファー・ジェーソン・リーと別れ,グレタ・ガーヴィクとの新しい生活を選択した,バームバックの実生活の道程が反映されていることは間違いないだろうが,終盤自らナイフで傷付けてしまうドライバーの傷口から溢れ出る血の量は,生きていくことに伴う犠牲の大きさを暗示して観るものを縮み上がらせる。
有能な弁護士を演じてオスカーに輝いたダーンの演技は勿論見事だが,夫側に付く二人の弁護士,アラン・アルダとレイ・リオッタの対照的な佇まいも物語の輪郭を深めている。そしてドルリューに代わって二人を慰める優雅なメロディを奏でたランディ・ニューマンにも最大級の賛辞を。映画は「アヴェンジャーズ」だけじゃないんだ,というスコセッシの言葉が身に沁みる秀作だ。
★★★★
(★★★★★が最高)
マイナーな劇団の演出家と主演女優の夫婦は,お互いに尊敬し合いながらも別々の道を行くことで合意し,離婚を前提に話し合いを続けていた。ところが話し合いが進展しないことから妻が弁護士を雇ったことによって二人の交渉は,話し合いによる妥協点の探り合いから,全面対決へと様相を変えていく。
夫婦二人(ヨハンソンとドライバー)に加え,妻とその弁護士(ローラ・ダーン),妻と息子,夫と息子,そして法廷でのやり取りと,様々なシチュエーションで,お互いに容易には形にならない感情を言葉に代えた上で,離婚後の具体的な生活形態の整理をする,という厄介な作業が,高い密度と温度とテンションを保った会話によって続けられる。そこでことを「厄介」にしているのは,二人が完全に敵対関係にあるのではなく,芸術を追究する同士という枠を超えて,尊敬とある種の愛情を抱え続けているからだ。元の鞘に収まることは不可能なことを理解しつつ,愛する子供に対する親権という,何事にも代えがたい権利を巡って本音を剥き出しにして争う二人の時間は,実はそれ自体が大きな「マリッジ・ストーリー」の一部なのだと思えてくる。ジェニファー・ジェーソン・リーと別れ,グレタ・ガーヴィクとの新しい生活を選択した,バームバックの実生活の道程が反映されていることは間違いないだろうが,終盤自らナイフで傷付けてしまうドライバーの傷口から溢れ出る血の量は,生きていくことに伴う犠牲の大きさを暗示して観るものを縮み上がらせる。
有能な弁護士を演じてオスカーに輝いたダーンの演技は勿論見事だが,夫側に付く二人の弁護士,アラン・アルダとレイ・リオッタの対照的な佇まいも物語の輪郭を深めている。そしてドルリューに代わって二人を慰める優雅なメロディを奏でたランディ・ニューマンにも最大級の賛辞を。映画は「アヴェンジャーズ」だけじゃないんだ,というスコセッシの言葉が身に沁みる秀作だ。
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