子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。
子供はかまってくれない
映画「リリーのすべて」:正しくは「デンマーク娘のリリーとゲルダのすべて」でしょうか?
アカデミー賞4部門を受賞した「英国王のスピーチ」。これを観て泣かない人間は血も涙もない冷血漢だ,と言われているような気分にさせられる程,日本でも絶賛された「レ・ミゼラブル」。
見事なまでに予定調和的な展開に,正しく立派な画面づくりが延々と続く両作ともに,まったく共感も感情移入もできなかった私はおそらく,トム・フーパーとの相性は最悪なのだろうと思っていた。
けれども何事も諦めずに,とりあえず付き合ってはみるものだ。「レ・ミゼラブル」に続いてエディ・レッドメインとコンビを組んだフーパーの新作「リリーのすべて」は,善悪,冷熱,愛憎すべての境界が明快に描かれていた前2作とは異なり,そういった感情や概念や行動の境界が曖昧で,そんな霧の中を手探りで進んでいく夫婦の姿に釘付けにさせられる。
1920年代のトランスジェンダーがどんな想いで日々を送っていたのか。自分自身を定義する概念や言葉も知らず,ましてや自分を救う手立てがあるなどとは思っていなかったであろう彼らの苦悩は,現代の我々の想像を遥かに超えるものだったはず。レッドメインの演技は,表情と声と指先まで神経を研ぎ澄ました細やかな動作によって,そんな観客の想像力と共感力を拡張する。昨年のオスカー戴冠は,彼の演技に自信と同時に,技巧に走り過ぎることを回避させる謙虚な視点をも,もたらしたようだ。
トム・フーパーはコペンハーゲンの色鮮やかな街並みと,アトリエの落ち着いた色調と,終盤の病院の無機的な冷たさとを巧みに描き分けつつ,リリーが置かれた時代の空気と彼女の悲劇を抑えたトーンで浮き彫りにしていく。
だが本作におけるそういった要素以上の驚きは,妻ゲルダ役のアリシア・ヴィキャンデルの目を瞠るような美しさと演技だ。初めは夫の中で長らく眠っていた「女性」性を,自分の絵のモデルとなるよう促したことによって目覚めさせた責任と好奇心が相半ばしているように見えた彼女が,やがて夫の苦悩を理解する唯一の存在として,愛情を失わずに寄り添っていく姿こそ,この悲しい物語の核となっている。この演技によって今年のアカデミー賞で「助演女優賞」を受賞しているが,作品における比重を図れば間違いなく彼女もレッドメインと同格の主演だと言える。
遅ればせながらのフーパーに対する評価と併せて,記憶に残る作品となるだろう。
★★★★
(★★★★★が最高)
見事なまでに予定調和的な展開に,正しく立派な画面づくりが延々と続く両作ともに,まったく共感も感情移入もできなかった私はおそらく,トム・フーパーとの相性は最悪なのだろうと思っていた。
けれども何事も諦めずに,とりあえず付き合ってはみるものだ。「レ・ミゼラブル」に続いてエディ・レッドメインとコンビを組んだフーパーの新作「リリーのすべて」は,善悪,冷熱,愛憎すべての境界が明快に描かれていた前2作とは異なり,そういった感情や概念や行動の境界が曖昧で,そんな霧の中を手探りで進んでいく夫婦の姿に釘付けにさせられる。
1920年代のトランスジェンダーがどんな想いで日々を送っていたのか。自分自身を定義する概念や言葉も知らず,ましてや自分を救う手立てがあるなどとは思っていなかったであろう彼らの苦悩は,現代の我々の想像を遥かに超えるものだったはず。レッドメインの演技は,表情と声と指先まで神経を研ぎ澄ました細やかな動作によって,そんな観客の想像力と共感力を拡張する。昨年のオスカー戴冠は,彼の演技に自信と同時に,技巧に走り過ぎることを回避させる謙虚な視点をも,もたらしたようだ。
トム・フーパーはコペンハーゲンの色鮮やかな街並みと,アトリエの落ち着いた色調と,終盤の病院の無機的な冷たさとを巧みに描き分けつつ,リリーが置かれた時代の空気と彼女の悲劇を抑えたトーンで浮き彫りにしていく。
だが本作におけるそういった要素以上の驚きは,妻ゲルダ役のアリシア・ヴィキャンデルの目を瞠るような美しさと演技だ。初めは夫の中で長らく眠っていた「女性」性を,自分の絵のモデルとなるよう促したことによって目覚めさせた責任と好奇心が相半ばしているように見えた彼女が,やがて夫の苦悩を理解する唯一の存在として,愛情を失わずに寄り添っていく姿こそ,この悲しい物語の核となっている。この演技によって今年のアカデミー賞で「助演女優賞」を受賞しているが,作品における比重を図れば間違いなく彼女もレッドメインと同格の主演だと言える。
遅ればせながらのフーパーに対する評価と併せて,記憶に残る作品となるだろう。
★★★★
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