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映画「モールス」:S.キング絶賛のリメイク作。果たして「この20年でNO.1のスリラー」だったのか?

スウェーデンの新鋭トーマス・アルフレッドソンがヴァンパイア映画に新たな角度から光を当てて創り上げた「ぼくのエリ 200歳の少女」(以下,オリジナル作と略)は,私にとっての昨年度のベスト・ムーヴィーだった。宿命と初恋と決断を,血も凍るような冷気に包んで,同時にある種の品位を携えながら撮り上げたアルフレッドソンの映像センスと態度は,ホラー映画の枠を縦横に拡げるものと言えた。
そんな傑作を,J.J.エイブラムスの製作の下で「クローバーフィールド」を監督したマット・リーヴスが,ハリウッドでリメイクしたのが本作「モールス」だ。

宣伝チラシに拠れば,人気作家で映画監督の経験もあるスティーヴン・キングは,この作品に「この20年のアメリカで,NO.1のスリラー。とにかく劇場に駆け込め。観終わった後にお礼を言ってもらえればいい」と絶賛評を寄せている。
確かにマシュー・ヴォーンの「キック・アス」で,少女アクション萌え中毒患者を大量に生産したクロエ・グレース・モレッツは,ジョディ・フォスター以来の知性派女優に化ける確かな可能性を感じさせる,見事な演技を見せている。同時にコディ・スミット=マクフィーも,大きな瞳の内に孤独と恋の喜びを同居させ,思春期のアンバランスを超えて「ザ・ロード」からの上積みを提示してみせた。
二人の子役のスプリングボードとしての役割ということであれば,「モールス」はその役割を充分に果たしたと言えるかもしれない。

だが,独立した一つの作品としてみれば,その価値は殆ど皆無に等しい。
ニュー・メキシコ山中の村が雪に閉ざされることは初めて知ったが,スウェーデン製のオリジナル作と変わらないシチュエーションで,ただ「登場人物が英語を喋る」ということのため,これだけのプロダクションを起こすことに,北米圏の興行以外に一体どんな意味があるのか,私には理解できなかった。

脚本上のアダプトは,CGを駆使して描かれる少女の襲撃シーンや,少女に噛まれた女性が陽の光を浴びて炎上するシーンがことさら大げさに描かれることを除けば,父親役(リチャード・ジェンキンス)が捕まるシークエンスの改変だけだ。
オリジナル作が持っていた真に「オリジナル」な数々のアイデアを何の工夫もなく,そのまま借用するだけでは,独特のリリシズムが失われることは火を見るよりも明らかだったはずだ。
ただ終わってしまったことを,言葉を尽くして嘆いていても始まらない。あとは,デヴィッド・フィンチャーが同様にスウェーデン製の傑作スリラーに挑んでいる「ミレニアム」が,同じ結果に終わらないことを祈りたい。

(★★★★★が最高)
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