日本人の10人に一人が鑑賞し,実写の日本映画史上最大のヒット作となったシリーズ第2作「レインボーブリッジを封鎖せよ」から7年。国内では無敵を誇る東宝としても期待を込めて送り出したと思しき話題作だが,蓋を開けてみれば,興行収入では100億円の大台突破が確実な「トイ・ストーリー3」に遠く及ばないだけでなく,「借りぐらしのアリエッティ」にも届かない可能性が濃厚で,作品の興行的な格から見れば「惨敗」に近い成績に終わりそうだという。
こと本作に関する限りは,シリーズのマンネリ化という問題以前に,「犯罪捜査もの」としての質の低下を看破した観客の評価が,そのまま興行収入に反映されたと考えるべきだろう。日本の観客をなめてはいけない。
今回は,これまで現場に生きてきた青島刑事(織田裕二)が「係長」に昇進し,湾岸署の引っ越しの陣頭指揮を執りながら,拳銃紛失事件とその拳銃を使って引き起こされた殺人事件を捜査していくというのがメイン・プロットになっている。青島がこれまでに逮捕した犯人達と今回の事件が繋がっているらしいということが途中から明らかになってくるが,やはりシリーズを追いかけてきた観客にとっては,中間管理職になった青島が,キャリアの室井(柳葉敏郎)とどう関わっていくのか,そしてリーダーとしてどう振る舞っていくのかという点が,最大の関心事になるはずだ。
しかし君塚良一の脚本は,今回何故か室井を完全に物語の外に追いやってしまい,キャリアとノンキャリアを代表する二人の間に生じてきた丁々発止のやり取りは,管理補佐官として現場をコントロールしようと目論む鳥飼(小栗旬)と青島の間で燻り続ける「いざこざ」というレヴェルに,スケール・ダウンしてしまっている。
だがそれ以前にもっと問題なのは,今回取り上げられる「事件」そのものが,警察から盗まれた拳銃によって起こされた2件の殺人という「重大」事件にも拘わらず,その「重さ」も「大きさ」も,そして犯人の輪郭さえも,全てがあやふやなまま,2時間21分という長い尺が無為に過ぎていくということだ。
第1作に出てきた殺人犯(小泉今日子)が,収容されている医療刑務所から遠隔操作によって脱出(=釈放)を試みるというアイデアはまだしも,それを実行に移す過程の描写がおざなりで,結果的に犯人のキャラクターが全く浮き彫りにならないまま,捜査側だけがドタバタ騒ぎを繰り広げるという展開に終始している。タイトルを見る限り,基本的に「捜査もの」であるはずの物語が,犯人をないがしろにしておいて,話に芯が通るはずがない。
だから捜査側も全く「動き」を与えられないまま,封鎖されてしまった湾岸署のシャッターを叩き続ける青島係長の指示を待ち続けるだけで,アクションのない画に被さる勇壮な音楽だけが,広い劇場内に空しく響き渡ることとなった。
「俺には部下はいない。いるのは仲間だけだ」という青島係長の決め台詞は,奇しくも「仲間内」の閉じられたコミュニティーで作られ,娯楽作品としての完成度に対する客観性を完全に欠いてしまったこの作品を,見事に象徴しているのが皮肉だ。
★☆
(★★★★★が最高)
こと本作に関する限りは,シリーズのマンネリ化という問題以前に,「犯罪捜査もの」としての質の低下を看破した観客の評価が,そのまま興行収入に反映されたと考えるべきだろう。日本の観客をなめてはいけない。
今回は,これまで現場に生きてきた青島刑事(織田裕二)が「係長」に昇進し,湾岸署の引っ越しの陣頭指揮を執りながら,拳銃紛失事件とその拳銃を使って引き起こされた殺人事件を捜査していくというのがメイン・プロットになっている。青島がこれまでに逮捕した犯人達と今回の事件が繋がっているらしいということが途中から明らかになってくるが,やはりシリーズを追いかけてきた観客にとっては,中間管理職になった青島が,キャリアの室井(柳葉敏郎)とどう関わっていくのか,そしてリーダーとしてどう振る舞っていくのかという点が,最大の関心事になるはずだ。
しかし君塚良一の脚本は,今回何故か室井を完全に物語の外に追いやってしまい,キャリアとノンキャリアを代表する二人の間に生じてきた丁々発止のやり取りは,管理補佐官として現場をコントロールしようと目論む鳥飼(小栗旬)と青島の間で燻り続ける「いざこざ」というレヴェルに,スケール・ダウンしてしまっている。
だがそれ以前にもっと問題なのは,今回取り上げられる「事件」そのものが,警察から盗まれた拳銃によって起こされた2件の殺人という「重大」事件にも拘わらず,その「重さ」も「大きさ」も,そして犯人の輪郭さえも,全てがあやふやなまま,2時間21分という長い尺が無為に過ぎていくということだ。
第1作に出てきた殺人犯(小泉今日子)が,収容されている医療刑務所から遠隔操作によって脱出(=釈放)を試みるというアイデアはまだしも,それを実行に移す過程の描写がおざなりで,結果的に犯人のキャラクターが全く浮き彫りにならないまま,捜査側だけがドタバタ騒ぎを繰り広げるという展開に終始している。タイトルを見る限り,基本的に「捜査もの」であるはずの物語が,犯人をないがしろにしておいて,話に芯が通るはずがない。
だから捜査側も全く「動き」を与えられないまま,封鎖されてしまった湾岸署のシャッターを叩き続ける青島係長の指示を待ち続けるだけで,アクションのない画に被さる勇壮な音楽だけが,広い劇場内に空しく響き渡ることとなった。
「俺には部下はいない。いるのは仲間だけだ」という青島係長の決め台詞は,奇しくも「仲間内」の閉じられたコミュニティーで作られ,娯楽作品としての完成度に対する客観性を完全に欠いてしまったこの作品を,見事に象徴しているのが皮肉だ。
★☆
(★★★★★が最高)